危険な動作によって事故発生

特別養護老人ホーム併設のデイサービスS苑では、熱心に事故防止活動に取り組んでいますが、事故が一向に減りません。所長がヒヤリハットシートの提出件数をノルマ化したため、シートの提出枚数は増えましたが、効果がありません。ある介護スタッフが次のようなヒヤリハットを出してきました。

「車椅子から椅子に移乗する際に、テーブルにつかまってもらって車椅子と椅子を入れ替えようとしたら、尻もちを着きそうになった」というものです。所長は「車椅子と椅子をきちんとセットしてから、利用者の身体を抱えて移乗するように」と防止策について指導しました。ところが、翌週、別のスタッフが同じ方法で移乗介助を行い、利用者を転倒させ骨折するという事故が発生しました。所長はヒヤリハット情報による防止対策を徹底するように、職員に厳しく指導し、家族に事故の報告を行いました。すると、家族からは「母はもともと足が悪いのだからつかまり立ちさせるのはおかしい」とクレームになりました。

危険な介助動作はルールを作って禁止する

予測可能な危険はヒヤリハットの対象ではない

ヒヤリハット活動とは「予測していなかったようなリスクが発生した場合に、これらの情報を職員で共有して防止対策を講じる」という活動です。介護現場では、利用者の身体機能の衰えや認知症の進行などから、予測できないリスクがたくさん発生ししますので、ヒヤリハット活動は大変重要です。

しかし、本事例の事故はヒヤリハット活動で防ぐ事故なのでしょうか?「利用者をつかまり立ちさせて車椅子と椅子を入れ替える」という介助方法は、危険であることが明白であり、予測可能なリスクです。
誰が見ても危険とわかる予測可能なリスクは、もともとヒヤリハット活動で防ぐリスクではないのです。

危険が明白なリスクはルールで防ぐ

誰の目にも危険とわかる予測可能なリスクは、ルールを作って禁止することで防がなければなりません。例えば、酒酔い運転は危険が明白であり、道路交通法で禁止されています。当然法律ですから厳しい罰則もあります。介護現場では、「面倒くさいから」という理由で危険が明白な「我流介助」をする職員がいることも否めません。これは、ルールを作って禁止しなければなりません。
具体的には「こんな危険な介助方法はやってはいけない」という、危険な介助方法を例示して禁止すべきなのです。ではこれらのルールを職員に守らせるためにはどうしたら良いでしょうか?

ルールを守らせるにはどうしたら良いか?

ルールを守らせるためには2つの重要なポイントがあります。1つ目は、誰でもわかるように文書で徹底することです。暗黙の了解はルールとして機能しません。法律の条文も就業規則も、みな文書化されています。2つ目は、違反した時の罰則を明確にすることです。「罰則が嫌だからルールを守る」という人もたくさんいますので、強制力を持たせるには罰則を設定することも効果があります。例えば、ルールで禁止されている危険な介助を行って死亡事故を起こせば、施設を懲戒解雇になりますし、最悪の場合業務上過失致死罪で刑事告訴されて有罪になることもあるのです。

執筆者情報

監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

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