はじめに

保育園のお迎えの帰り際に、先生が「本日撮影したお遊戯の動画を見てほしい」と母を引き留め、お子様には「これで遊んでいてね」と新しい粘土を渡しました。母と先生は動画を見ることに熱中してしまい、ふとお子様に目をやると粘土を口に入れていました。幸い口に入れた粘土を母がすぐに取り出し、飲み込むまでには至りませんでした。しかし、母からは保育園の管理不足だと強くお叱りを受けました。

日々お子様を支援している皆さまは、このようにヒヤッとした経験が一度はあるのではないでしょうか?誤食は誤嚥に繋がり、一歩間違えれば生命に関わる危険性があり、絶対に避けなければならない事故です。一方で、子どもが物を口に入れるのは、発達過程や子どもの感覚特性からみて理由があるのです。そこで今回は、子どもがなぜ物を口に入れてしまうのか、どうしたら防ぐことができるのか考えてみたいと思います。

口に物を入れるのは、必要なこと?

なぜ子どもは口に物を入れるのでしょうか?大人にとっては、「食事を取るため」などの目的が明確です。しかし、子どもにとってはどうでしょうか?

1)乳児期においては、口は物の特性を理解するための探索器官である

目で見て手で細かく触る能力が発達していない生後3か月頃までは、物の形や感触を舌で見分けます。そして、両手を伸ばせるようになる生後4か月~6か月頃は、目の前の物を両手で触ったり、口に持っていって舐めることで物の特性を理解します。赤ちゃんにとっては、口や舌は物の特性を理解するために重要な器官なのです。そして幼児期になると、目で見て色を認識したり、手で触って感触を確認することで物の概念が養われていきます。また1歳6か月から2歳以降になると、食べ物とそうでない物とを区別できるようになります。

2)発達に偏りのある子どもの特性の一つである

幼児期になっても身近にある物を頻繁に口に持っていくこともあります。特に発達に偏りのある子どもの場合、二つの理由から行ってしまいます。
一つ目は、手や指の機能、感覚の発達、視覚による物の認識が未熟なために、口に持っていくことで物の特性を理解しようとしています。
二つ目は、感覚の受け取り方の一つに、常に強い感覚刺激を求める場合があります。物の特徴が分かりやすく、噛んだり舐めたりする方が満足感を得られやすいのです。

いずれも発達や日常生活を営むうえでは、子どもにとっては必要な行為なのです。口で様々な物の感触や形を体験するための機会を提供することも大切です。

どうすれば誤飲、誤食を防げるのか?

<乳児期>

色々な感覚を手と口で経験して欲しい乳児期には、ビニール袋など素材を楽しめる物を使って遊ぶことが大切であり、玩具を子供の手のサイズに合わせて小さくする必要はありません。また、ビーズなどをひも状にした物であれば握る力やつまみ動作の練習にもなり、手の機能発達にも効果的です。

<幼児期>

動き回ってしまう幼児期は、危険な物は子どもの手の届かないところに置くなどの環境設定が必要になってきます。同時に、子どもの口に入りそうな小さい玩具は大人の目の届く範囲で遊ばせることも必要です。また、物の大きさの指標として、大人の手の親指と人差し指で作った輪を通るものは、子どもの口に入り、のどを通るものと考え、これを目安に子どもの周囲から誤飲など事故のおそれのある物を選別することも有用な方法です。

<幼児期~就学後>

食べ物とそうでない物の区別ができている年齢ではありますが、強い感覚刺激を求め口に入れる行為が見られる場合、その行為を止めさせるのではなく、代替できる物を見つけることが大切です。グミなどの歯ごたえの良い物やストローなど噛み続けても影響がない物を与えることで満足感が得られ、何でも口に入れる行為が改善されることもあります。

口に物を入れることは、子どもにとって意味のある行為です。
背景を理解したうえで、誤食防止に努めることが大切です!

執筆者情報

執筆:株式会社東京リハビリテーションサービス 
作業療法士・公認心理師 竹中 佐江子

こちらの記事もおすすめです