事例紹介

ある園の保育士Aさんは、5歳の男の子B君の対応に悩んでいました。
B君は、いつも走り回ってよく先生に注意されていました。そのたびに、「うるさい!」「死んでしまえ!」などと暴言をはくこともしばしば。お友達と遊具の取り合いとなり、お友達を突き飛ばしてしまう、なんてこともありました。Aさんが、お母さんにB君の家での様子を聞くと、B君には小学3年生の兄と1歳の妹がおり、お母さんは、仕事復帰したばかりでなかなかB君にかまってあげられていないとのこと。お兄ちゃんと喧嘩して泣きわめいているときも「泣かない!」「我慢しなさい!」と叱ってばかりで・・・と打ち明けてくれました。

このように感情がコントロールできないお子さんにはどう対応したら良いでしょうか?ここでは、子どもの感情がどうやって発達していくのかに焦点をあて、子どもの感情との向き合い方を考えてみたいと思います。

感情とは…?

「感情」とは目に見えないもので、その時の気分によって一時的に生じるものと捉えられがちです。

しかし、感情は人にとって思考や意思決定を導く重要な役割を持っていますので、なぜその感情が生まれたのかしっかり向き合ってく必要があります。そして、子どもにとって感情を上手くコントロールすることはこれから社会性を獲得していく上でとても大切になってきます。

感情はどのように発達していくの?

生まれたばかりの赤ちゃんにはどんな感情があるのでしょうか?

感情は、「喜び」「悲しみ」「怒り」「驚き」「嫌悪」「恐れ」といった感情が基盤となっていますが、この感情全てが赤ちゃんに備わっているわけではありません。感情は成長とともに分化されて、「個人の感情」として発達していきます。ここでは就学までの感情の発達についてご紹介します。

・新生児~3ヶ月頃:「快」「不快」といった2つの感情に分かれ、「不快」は泣くことで表出する。
・6ヶ月頃:基本的な6つの基本感情、「喜び」「悲しみ」「怒り」「驚き」「嫌悪」「恐れ」が成立する。
・1歳頃:言葉が発達して情動表出によって感情を伝えることは徐々に少なくなる。
・2~3歳頃:自分の気持ちと原因となった出来事を結びつけて考えられるようになり、「誇り」「恥」「罪悪感」といったより複雑な感情が芽生える。
・4~5歳頃 :相手の気持ちを理解し、集団生活のなかで感情の抑制も含めたコントロールを学んでいく。

特に、「怒り」「恐れ」といった負の感情は、脳が本能的に危機を感じて発している感情であるため、大人はその感情を認め、子どもに安心感を与えることが今後の感情コントロールにとって大切と言われています。

感情を上手くコントロールするには?

子どもの特性を理解すること

感情をコントロールするには個人差があります。その一つにパーソナリティ、つまり性格が影響しています。すぐにカッとなってしまったり気持ちの切り替えが出来ないお子様には、「泣かない!」などとすぐに子どもの情動を抑え込まずに、「おもちゃを取られて悔しかったんだね」と大人が子どもの気持ちをくみ取って代弁してあげましょう。
また、自閉症スペクトラムやADHDのお子さんは、周りの音などに敏感でイライラしやすくなって感情をコントロールできない場合があります。言葉の発達が遅いお子さんの場合は、うまく感情を表現できないこともあります。その時は、静かな場所で顔の表情カードなどのツールを用いて、自分の感情を相手に伝える場面を作ってあげましょう。

感情を育むにはまず認知機能を育てること

感情が生まれる前には、かならず「認知」が行われています。
この認知は、視覚や聴覚の情報、言語理解、記憶、推論など様々な機能が基盤となっていますが、この認知機能に問題があると、すぐに「キレる」といった表出につながることがあります。例えば、相手の表情をしっかりと見ないまま、相手が怒っていると勘違いしてしまう、相手の気持ちを推し量ることができないまま手が出てしまう、などが起こってしまいます。

子どもの感情コントロールは、大人が無理に抑え込まず、
自分の感情に安心して向き合えるように、大人が代弁してあげることが大切!
無理強いせずに、まずは子どもが受け入れられる食べ物を探してあげよう!

執筆者情報

執筆:株式会社東京リハビリテーションサービス 
作業療法士・公認心理師 竹中 佐江子

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