事例紹介

5歳のSちゃんは、いつもおとなしくて、一人で遊ぶのが好きな女の子。園庭で葉っぱや土を触って遊ぶのが大好きです。ある日、園庭で他の女の子のお友達が楽しそうにお話をしながら、おままごとをしていました。Sちゃんは近くにいましたが、なかなか輪の中に入ろうとしません。すると、かわいそうに思った保育士の先生は、「Sちゃんも交ぜてあげて」とお友達に声をかけました。しかし、Sちゃんは一度はお友達の輪に入れても、おままごとのやり取りについていけず、また独りぼっち。その後、Sちゃんはトイレにこもってしまいました。そして、先生が心配して中に入るとトイレに大量のトイレットペーパーを流し、トイレを詰まらせてしまいました。

こんなお子さんいませんか?

Sちゃんのように、おとなしくて、一人が好きで、一見世話のかからないお子さん。他にも下記に挙げた特徴のあてはまるこのようなお子さん、園にいませんか?

・一人で遊んでいることが多く、集団に入っていかない(いけない)
・新しいことや環境の変化を苦手とする
・特定の人、玩具、色、音などを好む
・周りと同じペースで理解できない
・発語が少ない
・目が合いにくい

自閉症スペクトラムとは?

上記のような特性があるお子さんは、自閉症スペクトラムと診断されることもあります。
このタイプのお子さんは全体の1.1%と言われており、下記の特性が見られます。

・対人関係の困難さ:相手の表情を読み取ることが難しく周りと違う反応を示す。名前を呼ばれても反応しない。
・こだわりの強さ:ある一定の音や行動にこだわり切り替えられなかったり、繰り返したりする様子が見られる。
・感覚面:感覚の過敏さ、鈍感さがある。大きな音などにも弱くパニックを起こすこともある。

どう関わったらいいの?

このようなお子さんは小さい頃から口数も少なく大人しいため、ご自宅や園において問題行動が目立たないのが特徴です。しかし、2歳を過ぎた頃から、発語が少ない、目が合いにくいといった特徴から「発達がゆっくり?」と周りが気づき始めます。そして、集団活動が始まると輪に入っていけない、こだわりが強くなるという特性が色濃くなり、問題が表面化していきます。

Sちゃんの場合、輪の中に入るという環境が急に変えられたことに加え、年齢的におしゃべりが好きな女の子に交じって遊ぶということが本人にとっては苦痛で不安だったのかもしれません。そして、自分の感情を整理し、気持ちを落ち着かせるためにトイレにこもったのでしょう。そして、このような特性のお子さんはある一定の動きや音を好むため、トイレットペーパーを流し続けるという行為がSちゃんにとっては自分を安心させるための手段だったと思われます。

自閉症スペクトラムのお子さんへの関わり方

・子どもの好きなもの、好きな動き(こだわり)を知ることで子どもがパニックになったときの対処法を準備しておく。
・指示は短く、簡潔に。選択肢を少なくする。視覚的な情報も合わせて示す。人や日によって指導が異ならないようにする。
・子ども同士の関わりで、学習経験を積めない場合には、まずは大人との関わりを築いていくことが大切。または、一つ下のクラスのお友達と遊ぶ場を設ける。
・発語の遅れのあるお子さんへは間違いを指摘するのではなく、対面で正しい単語を聞く機会を作る。「○○だね」など復唱する。
お友達と遊びたいわけではない?

お子さんが何を感じ、考えているのか、気づいてあげることが大切です!

執筆者情報

執筆:株式会社東京リハビリテーションサービス 
作業療法士・公認心理師 竹中 佐江子

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