はじめに

A君はとても活発で気になるものがあると、すぐに動いてしまう男の子。そんなA君がある日、クラスの中で遊んでいたところ、ふらふらと廊下の方に歩いていきました。担任のB先生は、目の端でその様子はとらえながらも、「何か興味があるものを見にいくのだろう。」と思い、少し様子を見ることに。その後、A君は廊下の先の玄関まで進み、最終的には玄関横の職員室でその様子を見ていた園長先生に見つかりました。園長先生は、担任の目を盗み脱走しようとしたと考え、B先生にヒヤリハットを書いてもらうことにしました。

何をリスクと考えるか

A君のように園の敷地内から園児が出てしまい、どこにいるのか分からなくなってしまうということは、子どもを預かる園としては、あってはならないことです。しかし、実際には玄関に施錠をしてあったため、完全に脱走してしまうという状況はあり得ない状態でした。
 「ただ教室を出てしまった」だけでヒヤリハットとなると、先生も絶対に目を離してはいけないと考え、子どもは教室から出ることが出来なくなってしまいます。最終的に教室にも施錠となると、それは拘束や虐待と捉えられかねず、それこそ大きなリスクになるかもしれません。

行動が制約されることで起こる「発達の促進を阻害する」リスク

子どもの自由が制約されると、子どもが色々な経験をする機会が奪われ、結果的に発達の促進を阻害することにもなりかねません。例えば、右上のイラストにあるようなジャングルジム。落下してケガをするリスクを考え、ジャングルジムでの遊びを禁止したとします。そうした場合、ジャングルジムで遊ぶことで養われる様々な力(バランスを取る力、ものを握る力、自分の体の大きさなどを認識する力など)を習得する機会を逸してしまうことになり、それは子どもの育ちを考えた際には、大きなリスクになり得ます。
 今回の事例では、せっかく子どもが能動的に探究心を持って行動している際に、それをストップされるといったことが繰り返されると、子どもは自分で考え、色々な行動を起こしていくことをやめてしまうかもしれません。そうすると、子どもの自立につながらず、様々な場面で人からやってもらうことを待つ姿勢の多い子になってしまうかもしれません。

危険回避などのリスクマネジメントとバランスを取りながら

危険を回避するといったリスクマネジメントは、園等を運営する意味で必須の視点です。そのため、「どこからでもどの子どもでも簡単に園外に出られるようになっている」、「よちよち歩きの子どもをジャングルジムで遊ばせる」といったことはリスクマネジメントの視点で考えた際にナンセンスです。
 しかし、危険回避ということを優先するあまり、管理やコントロールといった部分が過剰になりすぎると、本来の目的である子ども達の育ちを育むという、視点を阻害することになりかねません。 

【リスクマネジメントで必要な視点】
・大きな怪我を回避できるか      ・行方不明や脱走を回避できるか     ・拘束や虐待にあたらないか
・子どもの発達を阻害していないか  ・子どもの自立を阻害していないか

【リスクマネジメントで必要な視点】
・大きな怪我を回避できるか      ・行方不明や脱走を回避できるか     ・拘束や虐待にあたらないか血液検査
・子どもの発達を阻害していないか  ・子どもの自立を阻害していないか

弊社では「防ぐべき事故は何か?」といったリスクマネジメントの基礎知識や虐待防止に関する研修を定期的に開催しております。
ぜひ園の皆様でご参加ください。



執筆者

加勢 泰庸 (作業療法士・保育士・公認心理師) 

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