高齢になって安全運転がちゃんとできているかは、本人だけでなくご家族の皆さんも大変気になるところです。本人が運転に危険を感じるケースは限られる様なので、ご家族に気づいて欲しい危ない運転をご紹介します。本人の危ないと家族が感じる危ないをすり合わせて、より安全運転に磨きをかけてください。

一緒に乗っている家族に気付いて欲しい危険

普段の運転に同乗している人、多くの場合は配偶者ですね。男性が運転していれば奥さん。女性が運転していれば旦那さんになります。70歳代の免許保有率は男性の方が高いので運転手は夫で助手席は妻というパターンが多いと思います。

運転している人と助手席の人とでは見えている状況が違うので一概に判断できませんが、問題となるのは今までと違った運転をする様になった場合です。今までは危ないと感じることが余りなかったのに、最近は危ないと感じることが増えた。例えば、下記のような場合に注意が必要となります。

危険な運転
・高速道路での合流がスムーズでなくなった
・信号が赤なのに通過した
・左折の時に歩行者や自転車が迫ってきた
・右折の時になかなか曲がれない
・広い道で気がついたら逆走してしまう

その他注意が必要なケース
・急発進、急ブレーキや急ハンドル等で乗り心地が悪くなった
・運転しながら怒ったり怒鳴ることが増えた

同乗はしていないけれど心配、であれば…

一緒に暮らしてはいないけれど、遠くに暮らすお父さんやお母さんの運転に不安を感じている人も多いと思います。実際に危険かどうかはわからないけれど、高齢運転者の事故の報道が多いし、年齢的にはもう十分に高齢者だし、以前よりちょっと頼りない感じになってるし、そんな理由で、漠然と不安を感じているケースも多いと思います。
こんな場合には是非運転に同乗する機会を作ってください。もしも車に小さな傷やへこみが増えてきている様であれば注意が必要ですので、車の外装も含めて、本人の運転の様子を見ててみてください。
実際に同乗してみて安全な運転をしているのかを知ることは重要です。長年安全運転をきちっと続けている高齢ドライバーも沢山いらっしゃいますので、不要な心配をすることは避けたいですね。

本人が感じる危険と思い…

本人でも気づきやすい運転能力の変化では、病院やスーパーの駐車場で何回も切り返しをして止めるまでに時間がかかってしまう、バックで車の後方をぶつけてしまう、車の左側をこすってしまうなどが増えてきた場合です。この様なケースが増えてくると、本人は内心「あれー変だな、どうしちゃたんだろ?」と感じている場合も多く、より安全に運転が必要かもしれないと考え始めています。

その一方で、先ほどご紹介した様に「歩行者や自転車に直前まで気づかない」、「右折の時に行くかとどまるかを迷ってしまう」などでは、何故か運転手本人は仕方なかったと思っている場合が多く、本人に聞くと、相手が悪い、道路が悪い、信号が急に変わった、自転車が急に出てきたから仕方なかった、と感じているケースが大変多くなっています。実際には自身の運転に問題があったのか相手が悪いのかは分からないものの、たとえ相手に問題があっても、以前であれば容易に回避できていたわけですから、「対応能力が衰えたのかも」と自問していただきたいところです。

本人と家族の不安をすり合わせてください

同乗者や家族から運転に危険を感じていることを伝えても、本人からは抵抗されてしまうケースも多いと思います。本人は安全に対しては以前よりも気配りしているし、事故等の問題も起こしていないため、運転が危険になっているわけが無い、と感じている場合が多い様です。多くの高齢ドライバーは、安全に対しての意識は高く、経験に裏付けられた危険が潜む状況や危険を予測する能力は若いドライバーよりも長けています。しかし予測や意識が高くとも、複雑な状況に接した時に、迅速に正確な対応ができる身体能力が維持されているかが問題なのです。

身体能力の低下とは・・・
人間は年齢を重ねると少しずつ身体能力が低下してしまいます。自転車が急に迫って来たように感じたり、信号の赤を見落としてしまうのは視野角が狭まっているためで、誰でも年齢を重ねれば起きてしまう症状です。急発進、急ブレーキ、急ハンドルや危険な右折は反射神経や状況判断のスピードが落ちてきているためです。個人差はあるものの高齢者の全員誰でもが、視野角の低下や判断スピードの低下、瞬発的な身体の動きが低下しています。

不安のすり合わせに向けて

ご家族が感じる、以前は感じなかった心配ごとのほとんどは、身体能力の低下によるものが影響しているはずですので、危険に感じた状況を具体的に伝えて、身体能力の低下を自覚してもらう様に心がけてみてください。くれぐれも今まで運転してくれたお父さん・お母さんへの感謝の気持ちを忘れずに助言してあげてください。
安全運転への意識とは別の分野で、身体能力の低下は仕方の無いことです。ご本人は能力低下を自覚したうえでハンドルを握る様に心がけてください。運転手本人が身体能力の低下に気づいて、そこを気を付けて運転することで、本当の意味で運転が上達したと言えるのかもしれません。

もし、客観的な目が必要な場合には、ドライブレコーダーの記録映像を家族の皆さんで確認し、身体能力の低下がどの様に運転に影響しているのか確認することをお勧めします。損害保険会社からも後付けの専用ドライブレコーダーが付属された自動車保険が発売されています。(詳細は、本紙発行元あいおいニッセイ同和損害保険株式会社のホームページで確認いただけます。https://www.aioinissaydowa.co.jp/)
また、衝突軽減ブレーキ機能のついた自動車に乗り換えることを話題にするのも良いでしょう。1日でも長く被害者にも加害者にならないで運転を続けていただきたいですね。

執筆者情報

記事の作成・編集:並木 靖幸氏 / 特定非営利活動法人 高齢者安全運転支援研究会 事務局次長

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