事例
3人兄弟姉妹の長男Xさんが亡くなられたとのことで、妹のAさんからご相談をいただきました。XさんもAさんも独身で子がなく、ご実家にお二人で住んでいらしたところ、Xさんが突然心筋梗塞でお亡くなりになられたそうです。
ご両親も既に他界されているため、Xさんの相続人はAさんと弟のBさんのお二人になるとのことでした。
ご実家の土地建物は父親からの相続でXさん名義となっており、Xさんの預貯金も合わせると相続税の申告が必要となります。遺言がない為、AさんとBさんで遺産分割協議を行うようお願いしましたが、数カ月経っても、お話合いは一向に進まないまま、相続税の申告期限が迫ってきました。
結果
Bさんは結婚して家庭を持ち、実家から車で30分ほどの場所に持ち家があるため、今回の相続について次のようなご要望をお持ちでした。①両親と亡くなったXが眠っているお墓は、墓じまいをしてほしい、②空き家になると管理が大変になるため、Aは早めに施設に入って実家を処分してほしい、③その代わりに、相続財産は何もいらない。
一方、Aさんのご希望はというと、①現在のお墓に自分も納めてもらい、Bは菩提寺と協力してお墓を存続させてほしい、②先祖代々からの実家は、将来的な売却はやむを得ないが、できれば、残してBの子どもに引き継いでいってほしい、とのこと。
お互いの考えが平行線をたどり、遺産分割そのものが暗礁に乗り上げてしまっていたのです。ところが、その後、Bさんが体調を崩され、やむを得ず退職することが決まり、「今後の生活のためやっぱりXの相続財産を半分ほしい」と、一転して話し合いが進むことになりました。当初は、ご先祖様のことを何も考えず、身勝手なBさんにAさんは憤慨していました。しかし、たった一人の弟となったBさんの体調を心配し「生活の不安を早く払拭してあげたい」とのご意向で、またBさんも、まずはこの相続手続を終わらせておきたいとのご意向で、不動産はAさん、その他の預貯金をBさんが相続することで、遺産分割がまとまり、期限内に無事に納税も完了することができました。

祭祀財産(墓じまい)と空き家問題(実家じまい)
●祭祀財産
少子高齢化や核家族化などで単身世帯が増え、将来お墓を継ぐ人がいなくなってしまう不安から「墓じまい」を、遠方にあるお墓の維持・管理負担が大きいなどの理由で「改葬」を、さらに、永代供養である納骨堂や樹木葬などを検討する方も増えているようです。ご先祖様を祀る財産である「お墓」などは「祭祀財産」と呼ばれ、他の相続財産とは違い、遺産分割の対象にはなりません。法律の規定で、慣習または遺言による指定に従い、祖先の祭祀を主宰すべき者が承継するとされています。もっとも、慣習についての明確な基準はなく、相続人同士の話し合いにより、定めることになります。ちなみに、祭祀財産は相続税法上、非課税財産となります。それ故、生前にお墓や仏壇を購入しておくことは、相続税の節税対策になる場合があります。
●空き家問題
同様に、近年クローズアップされている「実家じまい」。相続で誰も住まなくなった実家が「空家」となり、近隣に悪影響を及ぼすことが問題視されています。そうした「空き家問題」を未然に防ぐ為の対策が取られていますが(「空家等対策の推進に関する特別措置法」の制定など)、使用目的のない空家は、今後も増え続けると予想されています。空家のまま放置しておくと、資産価値が下がるだけでなく、固定資産税の住宅用地特例の優遇措置が解除されたり、過料などの罰則を受けるなど具体的なデメリットを被る場合があります。一方、相続した空家を一定の要件を満たして売却した場合、譲渡所得から3000万円の特別控除が受けられるという税制措置も取られています。大切なご実家を「負動産」にしないためにも「誰が住むのか」「売るのか貸すのか」「解体するのか」など、「実家じまい」に取り組むことが求められています。
執筆者情報
事例発行元:相続手続支援センター事例研究会