事例

お父様がお亡くなりになったとのことで、長女のBさんが相談に来られました。
相続人は、お兄様AさんとBさんのお二人、相続財産は、自宅兼アパートの不動産と預金です。お父様の介護は主にBさんがしてきました。生前、お父様は、身体的な障害をお持ちのAさんのことを心配され、仕事をするのもなかなか厳しい上、生活も将来的に不安になるのではないか、と日頃からBさんにお話していたそうです。そのご様子から、お父様が遺言を遺されている可能性についてBさんに尋ねましたが、「終活や遺言について話をしたことはありますが、自宅にそれらしきものは無く、結局、書かなかったんだと思います」とのこと。念のため公証役場で検索しましたが、見当りませんでした。

結果

遺言がなかったため、ご兄妹で話し合いを進めることになりました。
当初、Aさんは、お父様の面倒を献身的に見ていたBさんにすべて相続してもらいたいとの意思を示しました。これに対し、Bさんは、Aさんの将来を考え、収益物件でもある自宅兼アパートをAさんに、また預金についてもすべてAさんに相続してほしいと、強く説得しました。最後は、AさんがBさんの説得に折れ、Aさんがすべてを相続する内容で遺産分割協議が成立し、手続きは完了しました。
ところで、何故お父様は遺言書を書かなかったのでしょうか。
お父様は、生前にBさんと話をしているうちに、遺言を遺さなくても娘は自分の気持ちをわかってくれているはずだと思ったのかもしれません。争う相続が頻繁に起きている今日この頃、兄を思う心からこのような判断をされたBさん。息子のことを心配し、生前に娘さんと語り合い、方向性を導いてくれたお父様。家族全員の配慮が実を結んだ相続だったと感じました。

ポイント

終活における遺言作成の意義

●遺言の必要性

終活や遺言に対する認識の高まりを受け、「終活」の一環として、自分の最期の意思を明らかにしておくため遺言書の作成を考えている方もいらっしゃるでしょう。ただ、実際に遺言を遺される方は、まだ多くはありません。
法律どおりにすればいい、遺言を書くほどの財産はない、というのも書かない理由として耳にします。しかし、遺言がない場合、相続人間の協議が必要となり、その結果が法律どおりとは限りません。意見が対立したり、簡単に分割できない不動産などがネックとなって合意形成に至らず、家族間での新たなトラブルに発展する可能性があります。
また、遺産が多かろうと少なかろうと、相続手続に変わりはなく、合意形成の必要性は変わりません。遺言作成は、遺された家族の負担を軽減し、無用な争いを避ける為にも必要なものと言えます。


●遺言作成を検討すべきケース

必ずしもすべての方に遺言が必要だとは言えませんが、遺言を書いておいた方がいいというケースはあります。
以下、主なケースを列挙しますので、該当する方は遺言作成を検討されてはいかがでしょうか。
子供のいない夫婦 ②事実婚の夫婦 ③遺産争いが予想される ④家族関係が複雑 ⑤相続人以外に財産をあげたい ⑥特定の相続人に厚くしたい ⑦事業を特定の人に継がせたい ⑧賃貸物件を多く保有している ⑨相続人が行方不明、未成年者、認知症である ⑩相続人が全くいない ⑪外国籍の方、及び帰化した方 ⑫いわゆる「お一人様」の方
遺言は主に、自分で書く自筆証書遺言と公証役場で作成してもらう公正証書遺言があり、平成元年以降に公証役場で作成された公正証書遺言は全国どこの公証役場からでも、その有無を照会することができます。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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