事例

以前にお父様の相続手続をご依頼いただいたAさんより、お母様が亡くなられたとしてご相談をいただきました。
お父様のご相続では、公正証書遺言が遺されていたので、特に問題もなく無事に手続きは完了しています。Aさんは「母は、父の時とは事情が少し違いまして・・・」と、お話を始めました。
Aさんの二人のお兄様は、MさんとNさんで、お母様が再婚されたお父様の連れ子(前妻との子)のため、Aさんとは母が異なりますが、いずれもお父様の実子であるため、前回は全員が相続人でした。ところが、今回お亡くなりになったAさんのお母様の実子ではないので、本来、お母様の相続人とはなりません。しかし、お母様はMさんやNさんを実の子供のように育て、Aさんもまた、二人の兄を慕い、母が異なることなど関係なく、兄弟仲良く暮らしてきました。また、MさんとNさんはお母様と養子縁組をしていたので、実子のAさんとともに相続人となるということでした。
相続財産は主に不動産や預貯金です。相続税の基礎控除を算定する際の相続人の数に、養子の数は制限されますが、連れ子の養子は、数の制限なくカウントするため、相続財産は相続税の基礎控除額以下となり、申告は不要となりました。お母様もお父様と同じく遺言書を遺し、Aさんが預かっていました。遺言は自筆で書かれたもので、封がしてあります。Aさんは、遺言の内容を聞かされていなかったので、その内容をとても気にされていました。

結果

それは、弟であるAさんご自身が、兄のMさんやNさんよりも、財産を多く受ける内容ではないかという心配です。
というのも、お父様の相続の際、子供3人に財産が分配されましたが、受ける財産はMさんやNさんがAさんより多い内容となっており、そのことをお母様が気にされていたというのです。Aさんは、兄弟3人でわだかまりなく平等に分けたいという願いが強く、できれば、遺言ではなく遺産分割協議をして分割することを希望されました。
お母様が自筆で遺言書を遺された以上、まずは家庭裁判所での検認を受ける義務がAさんに生じます。そのうえで、受遺者を含む共同相続人全員の同意があれば、遺言書と違う内容で遺産分割をすることができます。
Aさんに説明し、遺言書の検認を受けていただき、兄弟3人で遺言の内容を確認しました。実際には、子供たちそれぞれに配慮したお母様の気持ちが現れたものでAさんの心配は杞憂に終わりました。お母様の遺志を確認しながら、兄弟仲良く遺産分割協議を行い、手続きは無事に完了しました。

ポイント

養子の相続権

●再婚相手の実子の注意点

養子も実子と同じ順位で等分に相続権を有します。再婚相手の配偶者の実子(いわゆる連れ子)は、養子縁組をしておかないと、相続権が発生しないので注意が必要です。


●相続税対策の工夫

相続税の基礎控除額は、相続人の人数が多くなるほど高くなるため、養子縁組をして相続人の数を増やしておくことは相続税対策となります。しかし、相続税の計算上、法定相続人の数に含めることができる養子の数は制限され、被相続人に実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人までとなっています。ただし、Xさんのように配偶者の実子を養子にする場合はこの制限を受けません。今回のケースでは、法定相続人3人として計算される為、基礎控除額が4800万円(3000万+600万×法定相続人の数)となり、相続税申告は不要となりました。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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