事例

Aさんからのご相談は、亡くなられたお姉様Xさんの相続手続きについてでした。Xさんのご主人は既に亡くなられていて、お二人の間にお子様はいらっしゃらないようです。その場合は、ご両親、次いでその親である祖父母が相続人となりますが、そのどちらがも既に亡くなっていた為、Aさんを含む兄弟姉妹が相続人となります。
そうご説明したところ、Aさんが「親から聞いた話ですが、姉は戦後の混乱期にアメリカ人との間に子供を産んでいたそうです。すぐに養子に出したようで、父親の名前も子の名前も、今どこにいるのかもわからないんです…」

結果

早速取得した戸籍には、Xさんが戦後間もなくYさんという子供を産み、すぐにアメリカ人夫婦に養子にしたという出生及び養子縁組の事実の記載はありましたが、父親の欄やその後のYさんと養親の所在についての記載はありませんでした。子供であるYさんがいる場合、Xさんの相続人はYさんのみとなりますので、所在を調査する必要があります。まず、外務省に所在調査を依頼しました。外務省が実施する「所在調査」とは、長期にわたり所在が確認されていない日本人の連絡先を確認するという行政サービスです。Yさんはおそらくアメリカ在住と思われますが、日本の戸籍に残っていた為、「日本人」として、この方法で調査することができましたが、調査の結果は該当なしでした。
次に、Aさんと相談のうえ、相続人が所在不明として、Yさんの不在者財産管理人選任を裁判所に申立てました。無事に管理人が裁判所から選任されれば、Yさんの代わりに相続する財産を管理していくことになります。
申立てからしばらくして、裁判所から「Yさんについて失踪宣告の申立てをしたらどうか」とアドバイスがありました。
これは、利害関係人の請求により不在者の失踪が宣告され、その期間満了時に死亡したとみなされる制度です。Aさんの意向を確認し、失踪宣告の申立ても行い、半年以上が経過した後、失踪宣告が認められました。
晴れて、Xさんの相続人はAさんを含む兄弟姉妹となり、Aさん達は遺産分割協議を行い、Xさんの相続手続は無事に完了しました。最初のご相談から約2年が経過し、長い手続きとなりましたが、Aさんは「アメリカにどう連絡していいか分からず半ば諦めていたのに完了できて本当に良かったです」と、大変ほっとされていました。

ポイント

●不在者財産管理人

 相続人の中に連絡先が分からず、戸籍の附票で住所を調査しても職権で消除されていたり、または住所の記載があっても実際はその住所におらず、これ以上調査のしようがない方がいる場合、通常はその「不在者」の代わりに遺産分割協議をする「不在者財産管理人」の選任を家庭裁判所に申し立てて相続手続きを行います。
なお、不在者分の法定相続分は原則確保されねばなりませんし、管理人は、不在者の所在が明らかになるまで財産を管理せねばならない等、実態にそぐわない結果となることがあります。


●失踪宣告申立制度

 今回は、唯一の相続人Yさんの生死が不明だったこと・裁判所から失踪宣告を勧められたことで、そのような結果を避けて手続きを終えることができました。この制度では、不在者の生死が明らかでない場合、失踪宣告が認められると、不在者は法律上死亡したものとみなされ、不在者を遺産分割協議に参加させる必要がなくなります。また、不在者が唯一の相続人である場合は、次順位の相続人が相続人となります。しかし、失踪宣告は容易に認められることはなく、申し立てをすれば必ず失踪宣告が下されるということはありません。不在の事実を証する資料の提出を求められ、厳密に審査されるため裁判所の審判により却下されることもあります。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

こちらの記事もおすすめです