事例

AさんとBさんが「長男のXが亡くなったので相続の手続をしたい」とご相談にいらっしゃいました。
長男のXさんで31歳というお若い三兄妹は、皆さん未婚でご自宅に同居しておいででした。
既にAさんBさん間で遺産分割についての話も済み、Xさん名義のご自宅の不動産をAさんの名義に移転したいとのご希望でした。
早速お話を伺うと、Xさんは婚姻歴もなく、お子様もおらず、お父様も3年前に亡くなり、お母さまは20年以上前に交通事故で亡くなられているとのことでした。「では、おじい様、おばあ様はご存命でいらっしゃいますか?」と伺ったところ「はい父方の祖父のYがおります。祖母と母方の祖父母は亡くなりました」とのことでした。

思いもよらず、AさんとBさんは相続人にはならないことが判明してしまったのです。

結果

Xさんには妻子がおらず、両親も亡くなっているため、相続人は自分達兄弟姉妹だと勘違いをされていたようですが、実はそうではありません。

被相続人に直系卑属(子、子が既に死亡していればその子の孫)がいないと、直系尊属が相続人となり、さらに、直系尊属が被相続人より前に死亡している場合にようやくご兄弟が相続人となります。この「直系尊属」とは父母が既に亡くなっていれば祖父母、祖父母が全て亡くなっている場合は曽祖父母…と、どんどん遡って相続人になるため、今回はXさんのご相続人はおじい様のYさんお1人だったということです。

その後すぐに、唯一の相続人であるYさんへ相続放棄のお手続きをご案内しました。そして、相続放棄が受理されてから、AさんとBさんがご相続人になることで、改めてご相談を受けることとなりました。

実際はギリギリでしたが相続放棄の申述期間(YさんがXさんの死亡を知った時から3か月)以内に無事申述を行えたことで、YさんはもちろんAさん、Bさんのご希望どおりに手続を終えることができました。
早期にご相談をいただいたので、思い込みでタイミングを逃してしまう事態を避けることができました。

ポイント

相続人の順位

配偶者相続人(被相続人の妻又は夫)と、血族相続人(子や親、兄弟姉妹)が民法で定められています。

血族相続人

これには順位があり、「第一順位:子(子が相続開始時に死亡していればその孫、曾孫)」、「第二順位:父母等の直系尊属」、「第三順位:兄弟姉妹(相続開始時に亡くなっていればその子)」が相続人となります。
先順位の相続人がいない場合に初めて次順位の相続人が出てきます。このうち第二順位の相続人については、親等の近い相続人が優先されます。

(例)故人の父は亡くなっているが母は健在で、その父の祖母が健在である場合
→ 相続人はその母のみとなり、父方の祖母は相続人とはならない

今回のケースでは、次順位の直系尊属であるXさんの両親が亡くなっていたため、遡って祖父Yさんが相続人となり、相続放棄をしたことで、第三順位の兄弟姉妹であるAさんとBさんに相続権を譲ることができました。
なお、相続人は相続開始時に法律により決定され、遺言により相続人の指定をすることはできません。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

こちらの記事もおすすめです