「ふらついても支えられるよう注意深く介助する」

特別養護老人ホームの入所者Hさんは、早朝にたびたびふらつくことがあり、転倒の危険があります。リーダーはHさんの担当職員に離床介助の時は注意するように、繰り返し指示していました。ところが、ある日、介護職員のMさんがHさんの離床介助で、ベッドから車椅子への移乗介助をしようとしたところ、

Hさんが急に大きくふらつき転倒してしまいました。施設はMさんからの事故報告書受領後、管理者が家族に謝罪することになりました。

 管理者は事故報告書の再発防止策の欄を示して、「担当職員が“ふらついても支えられるよう注意深く介助する”と言っております」と説明しました。ところが、翌週、離床介助中に他の職員が再びHさんを転倒させて、骨折をさせてしまいました。あらためて謝罪して説明しようとする管理者に対して、家族は「いい加減な説明ばかりで信用できない!」と怒り心頭です。

なぜ事故報告書に再発防止策を書くのか?

事故報告書の再発防止策は信用できない

 本事例で介護職員のMさんは、事故直後に事故報告書を提出しています。家族説明に必要であり、事故報告書を迅速に作成するのは当然です。しかし、一方で、事故原因を綿密に分析して再発防止策を検討するには、最低でも5日くらいの時間が必要ではないでしょうか。分析や検討も無しに、事故原因や再発防止策などを記入するのは困難です。ですから、事故直後に提出された事故報告書の事故原因と再発防止策は、根拠の乏しい記述ともいえるでしょう。では、事故報告書作成はどのように運用したら良いのでしょうか?また、家族にはどのように説明したら良いのでしょうか?

事故報告書は3回に分けて作成する

 事故直後に「事故報告書」を作ってしまおうとすると、前述のような無理があるため、「事故報告書」の作成は3回に分けて行うと良いでしょう。まず、1回目の事故報告は「速報報告」として、「誰にどんな事故が起きてどんな対処を行ったのか」を記入します。そして、この速報を関係部署に事故報告速報として通知します。この事故報告速報の目的は、事故情報の迅速な共有にあります。事故後の対応にトラブルがおきないようにという配慮です。

2回目の事故報告は「事故状況と損害の確認」で、主な目的は家族説明です。事故状況を再検証して確認すると同時に、受傷状況・容態・治療方針などを記入します。事故がどのように発生したのか必ず検証作業をして、確実な事故状況を把握しなければなりません。事故の1日後に記入して作成します。

3回目の事故報告は「事故分析報告」です。該当の職場で事故カンファレンスを開催し、事故原因の分析と再発防止策を検討し、5日後に報告します。「事故が起きたら事故報告書を提出」という単純な業務手順を見直し、トラブル防止や再発防止策検討に役立つ仕組みを考えるべきなのです。

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執筆者情報

監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

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