◆事故の原因は「職員配置が不十分だった」?
デイサービスの外出行事で、有名な神社へ花見に行きました。出発した時は曇りでしたが、到着すると小雨が降って来て、傘をさして参拝することになりました。職員3名と利用者6名(うち1名は車椅子)で参拝し、送迎車に戻ろうとすると、Mさんが見当たりません。職員2名で境内全域を探しましたが見つからず施設からも応援を呼び、寺の境内を徹底的に捜索しましたが見つけることができず、17時10分に娘さんに連絡し警察への捜索願いを提出しました。翌日も早朝から手の空いている職員で市内を捜索しましたが、Mさんは見つかりません。家族は駅前で捜索チラシまで撒きました。2日後、捜索を続けていた職員が隣の市の市役所の駐車場にて発見し、病院に救急搬送されましたがケガもなく自宅に戻りました。
発見の翌々日に所長と相談員が果物とお見舞金を持参して訪問し、事故の原因は「職員配置が不十分であったこと」と謝罪しました。治療費などの支払いを申し出ましたが、娘さんは「どれだけ心配したと思っているの。そんなことでは気が済まない」と怒りを露わにしました。その後、所長と本部の職員が訪問して謝罪しましたが、娘さんはデイサービスに慰謝料を請求してきました。
見守りだけですべてを解決することはできない
◆職員配置は事故原因ではない
この事故で施設長が、「事故の原因は職員配置が足りなかったことだ」と言いました。6名の利用者(1名は車椅子)に対して職員3名では少ないので、人数を増やすべきだったというのです。本当にそうでしょうか?では職員を何名に増やしたら事故は防げたのでしょうか?
介護職員は自分たちの見守りによって、全ての事故を防ごうと思い、事故が起きると職員数が足りなかったと考えてしまうことがあります。この事故では、職員配置の問題より「なぜ小雨の中、人が混んでいる神社に行かなければならなかったのか」という方が問題なのです。外出行事は施設内とは環境が異なり、天候などの外的な条件に著しく左右され、本事例の事故原因は「わざわざ小雨の中、人混みに出かけたこと」だったのです。

◆なぜ職員だけで捜索するのか?
次の原因は、職員だけで3時間も探していたことです。人出の多い混雑した神社で、職員2名(1名は他の利用者の対応)で認知症の利用者を速やかに探し出すことは困難です。たとえ、天候などの外的な条件が悪くなくても、職員が利用者を見失うというミスは起こり得るのですから、もっと有効な対応方法を決めておかなければなりません。具体的には、神社の管理事務所などの係員に応援を求めたり、放送を使って呼び出しをするといった対応を決めておけば良いのです。
◆外出行事中だけ利用者に目印を付ける
私たちは、幼児を連れて遊園地に行って子供を見失ってしまったら、管理事務所に行って迷子の呼び出しをしてもらいます。そんな時、子供が誰から見ても判別できる特徴がある服を着ていると、発見が早くなります。同じようにデイサービスの外出行事でも、利用者に特徴のある服を着てもらえば、施設内放送で呼び出しを行った時に見つかりやすくなります。デイサービスの外出行事の時に、まさか「○○デイサービス」というワッペンを胸に付ける訳にはいきませんが、本人が抵抗なく付けられ、また尊厳を損なわないような工夫をしてあげれば良いと思います。あるデイサービスで行事参加者に、「式典の来賓の胸に付けるリボン」を付けたところ、「何の行事ですか」と周囲から尋ねられたという話がありますが、人を探すとき目印になるものであれば何でも良いのです。
外出行事のためのチェック資料をつくりましたので活用ください。(こちら)
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