◆「転倒事故が3割も増えた、減らせ」という本部委員会
今年も1月の法人のリスクマネジメント委員会で、各施設の前年の事故件数の集計が発表されました。毎年この時期に1年間の事故防止活動の成績表が配布されるのです。 H特別養護老人ホームは転倒事故の件数が前年比で30%も増加していて、施設長はその原因を分析して報告するように言われました。併せて、今年は転倒事故の防止に注力し、その方法について検討することも指示されました。
早速施設長は事故件数の集計データを持ち帰り、施設のリスクマネジメント委員会で「他の施設に比べて成績が悪い。今年は転倒事故の防止に徹底して取り組む」と決意を語りました。また、事故対策担当者に対して、転倒事故が増加した原因を分析して防止対策を検討するよう指示しました。さっそく、事故対策担当者は前年の事故報告書を調べましたが、転倒事故増加の原因はまったく分かりません。現場の介護職員にどのように転倒事故を減らしたらよいか聞きましたが、「転倒リスクの高い独歩の利用者の見守りを強化する」という返事しか返ってきませんでした。
介助中の転倒と自立歩行中の転倒は区別して集計する
◆事故が増えても大きな問題ではない
なぜ事故件数が増えると問題なのでしょうか?なぜ事故件数が増えると事故防止活動の評価が悪くなるのでしょうか?転倒事故の80%が自立歩行中の事故のように防げない事故で、防げない事故がどんなに増えても事故防止の努力とは無関係です。逆に介助中の事故のように「防ぐべき事故」が増加したのであれば、大問題であり、改善しなければなりません。

事故集計データの元になる事故報告書の事故区分が、防ぐべき事故と防げない事故を区分していないことが多く、事故件数で事故防止活動を評価してはいけないのです。H特養の事故対策担当者は、まずは、転倒事故の事故報告書を防ぐべき事故と防げない事故に分けて調べてみれば良いのです。そのうえで、防ぐべき事故が増えていなければ本部の指摘は間違っていることになります。
◆事故報告書の事故区分を変える
法人のリスクマネジメント委員会で施設ごとの事故集計や分析を行うのであれば、まず事故報告書の事故区分欄を見直さなければなりません。転倒事故を次の3種類に分けて事故報告書で区分して集計することを提案しますが、少なくとも介助中の事故と自立歩行中の事故は区分しなければなりません。
〇介助中の転倒事故➡防ぐべき事故(防止義務が大きい事故)
〇見守り中の事故➡ほとんど防げない事故(防止義務が小さい事故)
〇自立歩行中の転倒事故➡防げない事故(防止義務はゼロ)
同じように、誤薬の事故区分も「飲み間違い誤薬(自分の薬を飲み間違うケース)」と「取り違い誤薬 (誤って他人の薬を飲ませるケース)の2種類に分けて考えた方が良いでしょう。服薬自立の方が自分の薬を飲み間違う誤薬は防げませんしリスクも低いのですが、取り違い誤薬は重大なリスクにつながり絶対に防がなくてはならないからです。もうすぐ新年度を迎えますから法人全体で事故報告書を見直してはいかがでしょうか?
「事故報告書の見直しのポイントと活用策」(別紙)で詳細をご確認ください
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