事例紹介

Aちゃんは、幼稚園ではいつも活発に動き回り、ニコニコ笑顔で過ごしています。

年中さんの頃から運動プログラムの一環として取り組んでいる「中当て」ではボールから素早く逃げて最後まで残ることが出来たり、「椅子取りゲーム」では誰よりも早く椅子に座ることで勝ち残ることもしばしば。担任の先生は、Aちゃんが年長さんに上がる時、「Aちゃんは、他のお友達に比べてとても運動能力が高いし、普段は先生のお話をよく聞いてくれる手のかからない女の子」という内容を次の担任の先生に申し送りをしました。

しかし、Aちゃんが年長さんになって暫くたった頃、担任の先生から「最近、よく転ぶようになって足が傷だらけ」「お箸の使い方がなかなか上達しない」「一人で着替えが出来ない」などと相談が寄せられるようになりました。一体、Aちゃんに何があったのでしょうか!?

園でよくある子どもの心配事とは?

園の先生から寄せられる相談事には、下記のような悩みが多く寄せられます。

・体がクネクネして不安定・活動の切り替えが出来ない・目が合わない
・動き回って集中できない・お友達に手が出てしまう

Aちゃんが年中さんの時の様子を見てみると、これらの相談のいずれにも当てはまりません。一見、目立った問題は見受けられず、特に配慮は必要ないのでは?と思ってしまいますね。しかし、年中さんの時に行っていた運動プログラムで「最後まで勝ち残っていた」ことがAちゃんの転びやすさに関係していたのかもしれません。

「よく転ぶ」理由は、苦手な部分をカバーした結果?

「よく転ぶ」理由。それはAちゃんの「状況理解の難しさ」が関係していました。
Aちゃんは、先生のお話を耳で聞いて覚えること、複雑なルールを理解することが、実は苦手でした。つまり、状況を正しく理解したうえで行動に移すことが難しかったのです。

そこでAちゃんがとった手段は、「周りの状況を常に見逃さないように頑張って見る」ことで自分の足りないところを無意識にカバーしようとしていたのです。この為、常に目で見て動くような中当てや椅子取りゲームでは最後まで残ることが出来たのでしょう。そして、Aちゃんは常に頑張って周りを見ることで緊張状態が続き、体の色々なところを硬くしてしまったことが、足や手の動きのぎこちなさに繋がったのかもしれません。

見落とされやすい「認知機能」と「身体機能」の関係

状況理解の難しさ、いわゆる「聞く」「覚える」「理解する」などの認知機能と、運動能力つまりは身体機能とは全く異なる要素と思われがちですが、相互に関係しあっています。「お箸が上達しない」のは、道具を器用に使う場面で力が入って緊張しているため、上手に使うこともスキルを学習することも出来ないからと考えられます。「一人で着替えが出来ない」というのは、着替える行為はできても、手順を理解して段取りよく着替えることが出来なかったのでしょう。では、Aちゃんの場合、どのように関わればよかったのでしょうか?

答えはシンプルです。「個別に理解できているか確認をすること」です。例えば、先生がクラス全体に指示した後、「まず最初に●●します、その次はどうする?」など、次の手順を本人に確認することで、子ども自身も次の見通しを立てることができます。本人が安心できる環境で心身もリラックスできれば、からだの使い方も変わってくるかもしれませんね。

状況判断する力(認知機能)と運動能力(身体機能)、
相互に作用していることを見落とさないことが大切!

執筆者情報

執筆:株式会社東京リハビリテーションサービス 
作業療法士・公認心理師 竹中 佐江子

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