事例紹介

4歳の女の子Aちゃん。Aちゃんは入園当初から殆どしゃべらず、登園しても「おはよう」と挨拶することもありません。しかし園ではお友達とおもちゃで遊んだり、お絵かきをしたり、園庭で体を動かしたりして、楽しそうな表情で遊ぶ様子も見られました。園長先生は、言葉の発達の遅れが気になり、Aちゃんのお母さんに言葉の遅れを指摘するとともに、「発達障害の可能性もあるため、医師に診てもらってはいかがですか?」と提案すると、「家では普通におしゃべりしています。発達障害と決めつけないください!」と気分を害してしまいました。

Aちゃんはなぜ家ではおしゃべりしているにも関わらず、園ではお話できないのでしょうか?
ここでは、お話ができないことが、必ずしも「言葉の遅れ」や「発達障害」だけが原因ではない、隠れた理由について考えてみたいと思います。

おしゃべりしない原因は?

一言もおしゃべりをしない…このようなお子さんが園にいたら、あなたはどう接しますか?
「ただ内気なだけ?」と考え、積極的に話しかけますか?
「生活習慣が出来ていない!」と考え、親御さんに家庭でのかかわり方の助言をしますか?
「言葉の遅れ?」を疑い、言語の練習をしますか?
家ではおしゃべりしているのに、人前でお話をしないことから、「ちゃんとお話しないとだめでしょ。」などと叱ってしまうこともあるかもしれません。理由が分からないと先入観で色々と決めつけてしまい、かえってAちゃんにとっては逆効果となることも。

緊張すると人前で話せない、「場面緘黙症」とは?

場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)とは、「精神的なストレスがかかる場面で、上手に話すことができなくなる症状」を言います。家族のようなとても身近な人と話す場合には、問題なくコミュニケーションをとることができますが、家族ではない人と話すときにはストレスが生じ、上手く話せなくなってしまいます。
そして、この場面緘黙症は、子どもに生じやすく、薬などの治療法はありません。原因は様々ですが、人前で話すことに対する不安や恐怖が関係していると言われています。まだ、幼児は人前にでたり、集団で経験することが少なく、園に入園したばかりで不安を感じることも沢山あります。こうした時に人前で話すことに大きな抵抗を感じてしまい、場面緘黙症になってしまうことがあるのです。

どのように接したらよい?

では、場面緘黙症はこのまま治らないのでしょうか?このようなお子さんにどのように接したら良いのでしょうか?
それは、意外とシンプルで「子どもの不安を取り除くこと」が大切です。日常の中で大人が子どもへのかかわり方や見方を少し変えるだけで、子どもの不安を取り除くことができます。

・話すことを強要しない
強要すると、ますます「自分は話さないと」と追い詰められ、不安定な心理状態を助長させてしまう可能性があります。

・話さなくても回答できるような問いかけをする
例えば、「何がしたい?」と漠然とした聞き方ではなく、「これとこれ、どっちがいい?」など指さしなどで子どもが選択できる聞き方をしましょう。

・子どもの表情を観察し、大人が子どもの気持ちを代弁する
子どもが楽しそうな表情で遊んでいる時は「〇〇楽しいね。また遊びたいね。」などと大人が代弁してあげましょう。

・家族と一緒に人前に出る経験を増やす
家族とおしゃべりが出来るのであれば、まずは家族がいる安心感のなかで、公園や習い事などで人前に出る経験を増やしていきましょう。Aちゃんも、園に入園するまでは人前に出た経験がほとんどなく、不安に感じたことが原因かもしれません。まず、Aちゃんの心理面を考え、「本人が安心して園での生活を送ることのできる支援は何か」を親御さんと一緒に考えることが大切です。それでも改善しなければ、専門的な機関に相談し、必要に応じて発達の検査をしてもらうことも必要です。

人前でお話できなくなる「場面緘黙症」、
まずは子どもの不安を取り除き、安心して人前に出られる環境を作り出すことが大切!

執筆者情報

執筆:株式会社東京リハビリテーションサービス 
作業療法士・公認心理師 竹中 佐江子

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