はじめに

3歳から6歳までの事故において、1位の「転倒」に続き、2位に「衝突」が挙げられます。
「衝突」には、遊んでいるときにお友達とぶつかる、家具や遊具に衝突するなど様々な場面が想定されます。いずれの場合においても、子供が注意して周りを見ていなかったことが大きな要因として考えられます。対策として環境面での配慮も必要ですが、同時に「なぜ子どもが周りを見ていなかったのか」を考えることが大切です。それは見えなかったのではなく、見るために必要な機能、つまり「視覚機能」に問題があったのかもしれません。
ここでは、「視覚機能」に着目して原因を考えてみたいと思います。視覚機能に問題があると、今後の生活、特に就学後にどのような影響が起こりうるのかについても触れたいと思います。

視覚機能と衝突はどう関係するの?

私たちは障害物を避けて移動するとき、対象物の大きさ、高さ、向かってくる人や物との距離感、スピードなどを捉え、それらに合わせて適切なタイミングで体を動かします。しかし、一度に入ってくる多くの情報や予測できない人の動きに柔軟に対応するには、まずは目から入ってくる情報を同時に処理しなければなりません。そのためには視覚機能を通して正確な情報が脳に入力される必要があります。そこで基本的な視覚機能の役割とその発達をみてみましょう。

1)視覚機能の役割

視覚機能には、「視力」だけではなく「眼の動き(眼球運動)」を自らコントロールする機能があります。この眼球運動は、本を読む、運転する、絵を描くなど私たちが日常生活を営むために欠かせない動きになっています。

・注視:対象物を見続けること
・追視:動いているものを眼でなめらかに追いかける動き
・注視点移行:ある1点から別の1点へ視線をジャンプさせる動き
・輻輳(ふくそう):距離感や立体感を捉えるために必要な動き。近くのものを見るときは両眼を真ん中に寄せ、遠くのものを見るときは両眼をはなします。

2)新生児の視覚機能の発達

視覚機能は出生後すでに成人と同じように備わっているわけではなく、運動機能などその他の機能とともに発達していきます。また、幼児の場合は生後6か月間に集中的に発達します。
そして、その後の目と手の協調、知覚技能は、経験により左右されます。

・0か月~2か月:抱っこされている人の顔を見る・コントラストがはっきりとした物への注視
・3ヶ月~5か月:単眼視から両眼視へ(輻輳の始まり)・光っている物や動くものを追視・立体視の獲得・色の区別
・6か月~8か月:目と手の協応の始まり・頭と眼球の分離・両眼視定着・輻輳が安定
・9か月~11か月:視覚情報の記憶・動き回ることで奥行き知覚が発達・模倣が始まる
・12か月:標準的な視力(はっきり眼の焦点を合わせてみる能力)

視覚機能の発達の遅れは、就学後にどのような影響があるの?

視覚機能の発達に何らかの問題があると、就学後に必要な「見る」「読む」「書く」「見たものに合わせて動く」ことが難しくなります。

例えば…
・本を読むときに、文字を読み飛ばす
・はさみや折り紙が苦手
・板書をするのが遅い
・ボール投げが苦手  など

就学前に視覚機能に問題がないか、眼科医、作業療法士、検眼士、視能訓練士などの専門家に評価してもらい、必要に応じてトレーニングすることが大切です。
私たちの日常生活に欠かせない「視覚機能」。
衝突事故は、子どもの「視覚機能」が原因かもしれません!

執筆者情報

執筆:株式会社東京リハビリテーションサービス 
作業療法士・公認心理師 竹中 佐江子

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