◆事例紹介◆
Cちゃんは、入園したばかりの2歳の女の子。歩く事も出来ており、言葉を発する場面もあり、一見、他のお友達と変わった様子は見られませんでした。しかし、集団活動をしている中で、「転びやすい」「すぐに手づかみで食べる」「落ち着きがない」など他の子どもたちと違う姿が目立ってきました。
心配になった担当の保育士さんは、お母さんに園での様子をお伝えすると、1歳で独り歩きも出来ており、家でも目立った問題はありませんでした。 しかし、さらに詳しく聞いていくと発達過程で、ある過程を踏まなかったことが分かりました。その「ある過程」とは一体何でしょう?

◆乳児期における機能獲得は、今後の生涯の活動に影響する!?

乳児の運動発達は、「首すわり」「寝返り」「お座り」「ハイハイ」「つかまり立ち」「独り歩き」といったように機能が獲得されていきます。これらの機能は、概ね1歳~1歳半までに出来るようになり、赤ちゃんはあっという間に成長していきます。一方で、運動のみが自然に習得されるものではなく、様々な感覚(視覚、前庭感覚、固有感覚、触覚、聴覚)をもとに環境との相互作用で成り立っていますので、赤ちゃんがどんな環境下で育てられるかが大切になってきます。
さらには、乳児期の機能獲得には、今後の生涯の活動に必要な要素が凝縮されているといっても過言ではありません。

◆経験してこなかった「ある過程」とは?

Cちゃんが経験してこなかった「ある過程」とは何だったのでしょうか?
Cちゃんは、「ハイハイ」をせず、「お座り」からそのまま「つかまり立ち」「独り歩き」ができるようになったことが分かりました。その理由として、お母さんは、「Cちゃんは、2,000gで小さく生まれたので、数週間保育器に入っていました。このため、周囲から発達の遅れを指摘され、他の子より遅れることが心配で・・・すぐに立たせる練習をさせていました。」と話してくれました。

◆「ハイハイ」にはどんなに良いことが?

「ハイハイ」を通して得られる機能を見ていきましょう。

<肩回りの力がつきます>
 腕で体を支えることで、肩周りの力がつきます。同時に、腹筋が鍛えられ、安定した体幹づくりに繋がります。
<手のひらの形が作られます>
 手のひらを床につけることで、手のアーチが作られます。手のアーチは、将来のスプーンや鉛筆などの道具操作の土台となります。
<高さや奥行き感覚を養います>
 低い所から高い所へ、手で支えながら目を同時に使うことで、高さや奥行きなどの空間を捉える力が養われます。

Cちゃんが、転びやすかったり、すぐに手づかみで食べるのは、体幹が不安定であったり、道具を持ち続けることが出来なかったことが要因として考えられます。大切なのは年齢通りに機能を獲得していくのではなく、どのような順序、過程で習得していくかが重要なのです。
では、ハイハイを習得する時期を過ぎたら、手遅れなのでしょうか?
そんなことはありません。手を使いながら体を動かす遊びは日常にあふれています。物を両手で運ぶ、雑巾でお掃除をする、お風呂でお父さんの背中をタオルで洗ってあげる、など日常のお手伝いで何気なく出来ることもあります。また、園の遊びでも、四つ這いになりながら坂を登ったり、手で支えながら体を動かすチャンスを沢山作ってあげましょう。

乳児期の発達について、どのような過程を経て機能獲得されていくのかを知り、
適切な支援・保育をすることが大切です!

執筆者情報

株式会社東京リハビリテーションサービス
言語聴覚士 堀川 由樹子

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