事例

今年で87歳になるAさんが、ご主人のXさんのご相続について相談に来られました。お子様は2人いますが、ともに遠方に住んでおり、Aさんおひとりでは預金や不動産、年金のお手続きが難しいということでした。
その事実が判明したのは、年金のお手続きを進めているときでした。亡くなったご主人は、現役時代はサラリーマンをしており、厚生年金の手続きとなります。社労士が遺族年金と未支給年金の請求のために、ご夫婦の年金記録を確認したところ、亡くなったXさんでなく、Aさんご本人が若い頃にかけていた記録(厚生年金7か月分)が見つかったのです。

結果

新たに見つかったのは、Aさんが60年前に勤めていた会社の7か月間の厚生年金記録でした。とても昔の、一年にも満たない記録ではありますが、これによりAさんの老齢年金が年間28,770円増額されることになりました。しかも、この増額分は65歳時までさかのぼって支給されることになるため、現在87歳のAさんは、22年分さかのぼり、約63万円の金額が振り込まれることになったのです。
長年連れ添われたご主人に先立たれ、気を落とされていたAさんでしたが、ご主人の相続手続がきっかけで、本来受け取るべき年金を無事に受け取ることができたことになります。おかげで、「なんだか少し力が出てきました。」とやっと笑顔を見せていただけました。
未確認の年金記録があるかどうかは、調べてみないと分かりません。さかのぼって請求することで、予期せぬ大きな収入になる場合があります。エンディングノートや自分史を作成し、年金記録と照合してみることも大切です。

遺族年金制度

●年金の受給漏れ

 今回の事例は、ご主人の遺族年金や未支給年金の手続きを専門家に依頼したところ、ご自身が本来受け取れるはずだった年金の受給「漏れ」が発覚したというケースです。自分の年金記録にある「漏れ」や「誤り」は、自分で見つけ出すしかありません。その為には、記憶をたどりながら、エンディングノート等で自分の職歴をまとめ、年金記録と照合するといいでしょう。年金記録は、定期的に送られてくる「ねんきん定期便」のほか、「ねんきんネット」でも検索できます。
 また、職歴をまとめておくと、自分が亡くなった後に、遺族が遺族年金を請求する際にも役立ちます。
 なお、年金記録が訂正されて年金が増額された場合は、年金時効特例法により、5年の時効により消滅した分も含めて、本人または本人が死亡している場合は遺族に対して、全額が遡及して支払われます。

●遺族厚生年金の見直し

 今般、5年に1度の年金制度改革関連法によって、原則として、18歳未満の子供がいない夫婦の遺族厚生年金に大きな改正がありました。これは、共働き世帯が中心となっている現代の状況に合わせ、男女間の年金受給格差を解消することを目的としています。これまでの制度では、30歳未満の妻には5年間、30歳以上の妻には生涯にわたり遺族年金が支給されていました。一方、妻を亡くした夫の場合、55歳未満であれば支給されず、
 55歳以上であっても59歳までは支給停止となるなど、男女間で受給に大きな差が生じていましたが、今回の改正により、「60歳以上は無期給付」は変わらないものの、配偶者が亡くなった際に60歳未満の方については、男女ともに一律5年間の有期給付になる大きな見直しがなされました(2028年4月に施行予定)。なお、既に遺族厚生年金を受給している方、60歳以降に遺族厚生年金の受給権が発生する方、18歳未満のこどもを養育する間にある方の給付内容、2028年度に40歳以上になる女性については、今般の見直しの影響はありません。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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