事例

ご主人のXさんがお亡くなりになり、奥様のAさんがご相談にいらっしゃいました。
相続人は長女のBさんと二女のCさんのあわせて3名。金融資産は3分の1ずつ相続し、XさんとAさんのお二人で暮らしていたご主人名義の自宅不動産については、今後も引き続き住み続けるAさんが相続することで、遺産分割の話合いができているとのことでした。
しかし、Aさんに詳しくご意向を伺うと、永年ご主人と暮らした自宅で住み続けたいが、ご自身にも相応の資産があることから、今回の相続で自宅をAさんが相続してしまい、自分が亡くなった際、娘たちに多額の税の負担がかかってしまうのが心配…ということで、何かいい対策がないかと案じていらっしゃいました。

結果

そこで、税理士によって、今回の相続税とAさんが亡くなった後の相続税の両方を考慮し、遺産分割による税額のシミュレーションを行いました。その一案として、BさんCさんが自宅を相続することにし、“配偶者居住権”を設定することを提案しました。配偶者居住権により、Aさんは安心して自宅に住み続けることができる上に、配偶者居住権の評価分はAさんの相続財産となるので、今回の相続で、配偶者としての税額軽減の対象となるだけでなく、Aさんが亡くなられた場合の税額は、今回、自宅をAさんが相続する場合より軽減でき、娘さんたちの負担も軽くなります。
「そんな制度があることは全く知りませんでした。私も自宅に住み続けることができる上に、相続税の面でも有利なのね」とAさんにも喜んでいただき、ご相続人の皆様で配偶者居住権を利用した遺産分割協議を行うこととなり、無事に相続税申告も終えられました。

配偶者居住権と二次相続

●配偶者居住権とは

 配偶者居住権は、令和2年に施行された民法(相続法)改正で新設されました。遺された配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合に、配偶者は遺産分割や遺贈等によって配偶者居住権を取得することにより、終身又は一定期間、その建物に無償で居住することができるという権利です。

●設立の背景

 法定相続分で遺産分割をする際に、自宅不動産以外の財産(預貯金等)が少ない場合などでは、配偶者が自宅の所有権を相続すると、預貯金等を十分に相続できず、たとえ住む場所は確保できても、老後の生活資金を十分に確保できないという問題が多々ありました。そこで、この配偶者居住権を取得することで、配偶者が自宅の所有権を取得せずに自宅に住み続けられる上に、所有権よりも低く評価される分、多くの預貯金を相続可能にしたのです。一方、配偶者居住権は所有権のように第三者に譲渡することが禁止されているため、将来、老人ホームに入居する資金として自宅を売り出そうとしても、配偶者自身が自宅を売却することができない点は注意が必要です。

●対二次相続メリット

 なお、配偶者居住権は二次相続での税負担を抑えるという側面もあります。一次相続で配偶者が自宅の所有権を取得すると、配偶者控除を受けられるものの、二次相続ではその自宅が課税対象となります。そのため、今回のように、子どもたちの相続税の負担が重くなる懸念が生じます。しかし、配偶者居住権を取得した場合は、配偶者が亡くなると配偶者居住権は消滅することになり、相続税の課税対象にはならず、二次相続における相続税の負担が軽減できる可能性があるのです。

●二次相続への備え

 一次相続の際に相続税額が最少になるよう遺産分割を行なったとしても、二次相続も合わせて考えた場合、かえって税負担額が大きくなってしまうこともあるので、。二次相続を考慮しての税額シミュレーションをしてみるのも有用です。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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