事例
AさんBさん姉妹が、お父様Xさんのご相続についてご相談にみえました。お父様の相続人は、施設で暮らすお母様Yさんと姉Aさん、妹Bさんの3人。相続財産はご実家と預貯金です。
ご実家はいずれ売却するとして姉妹が共有で引継ぎ、預貯金はお母様Yさんが相続する予定ということで、手続きは円滑に進みそうでしたが、念のため、お父様の財産で何か漏れがないかを確認すべく、お父様の通帳を拝見しました。すると3年ごとに電力会社から900円の振込がありました。経験上、こうした振込が発生する場合は、敷地内に電柱が建っていたり、架線が上を通っていたりするものですが、お二人は思い当たらないとのこと。いったん電力会社に確かめることにして、初回面談は終了しました。
結果
その答えは問合せすることなく、固定資産税の名寄せをとることで判明しました。同じ市内のご自宅とは別のところに、お父様はわずかな土地を10人共有で所有されていたことが分かったのです。
聞けば、以前住んでいて、何十年か前に売った家の近くで、現在はたしかに電柱が建っているとのことです。振込額はその土地使用料です。売却の際、その土地の持ち分が漏れたため、お父様の名義のままとなっていると考えられます。さらに、登記簿に記載されたお父様以外の9名の共有者の中には、既に亡くなっている方もいるようです。
AさんBさんとも、年300円の使用料もその土地自体も要らないとのご意向ですが、その土地だけを受け継がない(放棄する)ということはできません。手放すにしても、相続人の誰かの名義に登記した上で、家を売った際の相手や他の共有者に買ってもらう(又は贈与する)か、共有の持分を放棄するという方法が考えられます。
持分放棄は一方的な意思表示でできますが、最終的な登記の際には相手方の協力が必要です。
共有者の中に既に亡くなっている方がいれば、なおさらスムーズにはいかないでしょう。
そうした懸念もあり、結局、どちらがその土地を相続するのかで協議が進まなくなってしまいました。価値はほとんどなくても、不動産は大きな足かせとなる場合があります。
所有者不明土地問題解消に向け、相続登記は義務化されましたが、「相続したくない土地」は、多いようです。

「相続放棄」の正しい理解と「相続登記の義務化」
●相続放棄
相続財産の中に、相続したくないと考える財産があったとしても、その一部(例えば、自分のみが不要と判断した「特定の財産」や「借金」)だけを放棄して、他の財産を相続するということはできません。相続を放棄する手段として「相続放棄」を選んだ者は、その相続に関して初めから相続人とならなかったものとみなされ、プラス財産・マイナス財産のすべてを引き継がないこととなります。言い換えれば、相続放棄をしなければ、プラス財産・マイナス財産のすべてを引き継ぐこととなります。もっとも、相続人が複数いる場合には、遺産分割協議において、「特定の財産」を他の相続人が相続してくれるというのであれば、自分が相続しなくて済む場合もあります。
●相続登記の義務化
今回のケースのように、このまま協議が進まず、長期に及び相続登記が行われないとなると、注意が必要です。というのも、令和6年4月1日から、相続や遺贈により不動産を取得した相続人に対し、自己の為に相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記の申請をすることが義務付けられたからです。令和6年3月31日以前に相続が開始している場合も、義務化の対象となるためご注意ください(令和9年3月31日が期限となります)。なお、正当な理由なく義務に違反した場合は10万円以下の過料の適用対象となります。相続登記をせず故人名義のままとなっている不動産がないかどうか確認されることをお勧めします。
厳しい利用要件がありますが、土地国庫帰属制度の利用を検討してみるのもよいでしょう。
執筆者情報
事例発行元:相続手続支援センター事例研究会