厳しく叱責したら出勤しなくなった

特養の職員S君(26歳男性)は、内向的な性格で「愛想が悪い」と良く言われていました。ある時、家族に挨拶をしなかったS君に、M施設長は「なぜご家族に挨拶ができないんだ。親はどういう教育をしたんだ、親の顔が見たいよ」と家族の前で怒鳴ってしまいました。それから、S君は1週間後に出勤しなくなり、親から「施設長のパワーハラスメントでうつ症状が出た」と、法人本部に訴えがありました。
 理事長は、経営会議を開き次のように話しました。「最近の若い職員は親に叱られたことがない人もいて、普通に叱っても過剰に反応する傾向があります。M施設長は本人のために叱ったのですが、本人の感じ方が過敏だったようです」と。M施設長の処分は保留となり、市販のテキストを買って管理者研修会を開きました。ところが、2か月後に、他の施設で主任が部下の頭を小突いたことがパワハラだとして、問題になってしまいました。

4月1日からパワハラ防止法が中小企業にも適用に

なぜパワハラを防止できないか?

2020年6月1日より施行された「パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)」が、2022年4月1日から中小企業にも適用になりました(今まで努力義務)。法律の適用によって多くの介護事業者でも、「パワーハラスメント防止措置」が事業主の法的義務となります。
では、パワハラ防止法とはどんな法律なのでしょうか?
・パラーハラスメントの定義を明確化
・事業主に対して次の「パワーハラスメント防止措置」を義務化
 (1)事業主によるパワハラ防止の社内方針の明確化と周知・啓発
 (2)苦情などに対する相談体制の整備
 (3)被害を受けた労働者へのケアや再発防止
 (4)被害者・加害者のプライバシー保護や不利益な取り扱い禁止のルール化

どのような影響があるのか?

パワハラ防止法は、義務違反に対して罰則はありません。※1もし、違反しても直接的なペナルティを受けることはありません。しかし、様々な面で次のように事業者が不利益を被る可能性が高くなり、真剣に取り組まなければなりません。
・パワハラ防止法により、うつ病による自殺などパワハラ被害の賠償訴訟が被害者に有利になる。
・パワハラ被害が発生した時事業主の責任が問われやすくなる。
・パワハラ被害はブラック企業※2の象徴として若年労働者から敬遠される。
※1:厚生労働省から勧告を受けたり、社名やパワハラの内容などを公表される可能性があります。
※2:ブラック企業とは長時間労働や労基法違反などが多い企業を指しパワハラのみでブラック企業とされる訳ではありません。

 

 

6月17日に「高齢者施設のパワーハラスメント対策」WEBセミナーを実施します。

詳細は、リンク先の案内をご参照ください

執筆者情報

監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

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