事例
「25年以上前に亡くなった主人Xの遺産分割協議をしたいのですが」とAさんからご相談がありました。
XさんとAさんのご夫婦には3名のお子様がいらっしゃり、30年前に末のお子様が生まれたのを機に当時の住宅金融公庫より借り入れをして家を新築されたとのことでした。しかし、そのための無理がたたったのか、Xさんは家を建ててから5年後に42才の若さで病死されたそうです。Xさんが亡くなられてから、Aさんは日々の生活に追われ、不動産の相続までは気が回らず、Xさん名義のご自宅の登記はそのままになっていました。
Aさんは一家の大黒柱を失った後、女手一つで懸命に働きながら3人の子供を育て、借入金の返済に努めてきたものの、その後教育費や結婚に伴う出費もかさんだことから、借入金の毎月の返済も滞りがちとなってしまい、とうとう債権者である住宅金融支援機構が抵当権を実行し、裁判所にご自宅の競売の申立がなされ、競売開始が決定してしまったということでした。Aさんとしては、現在はそうした理由で住宅金融支援機構により、相続登記がされているものの、これを機に自宅についてお子様たちと遺産分割協議をして、改めて登記をし直したいとのことでした。
結果
亡くなられた方の登記名義のままの不動産を処分するには、抵当権者は第三者であるものの、抵当権設定対象不動産について、抵当権実行の前提として法定相続分での登記をすることが可能となっています。Aさんのご自宅も、債権者である住宅金融支援機構により、Aさんたちが知らない間に4人の名前で法定相続持分どおりの登記(共同相続登記)がなされ、差押が登記されていました。
Aさんは、これまで子供達に極力心配をかけたくないとしてきましたが、初めてお子様たちにご相談をされたそうです。そして、今では皆、仕事に就いており、協力すれば借入の残金も一括弁済できるということで、子供達ででお金を出し合い、借入金を完済しました。これにより、差押は取下げとなり、差押登記も抹消、抵当権の登記も抹消となりました。
その後、家族全員で遺産分割協議を行った結果、長男が相続することで合意に至り、一度法定相続分で登記が行われているため、遺産分割を原因に更正登記を行いました。Xさんがお亡くなりになって25年以上経過し、ご自宅の相続が完了してAさんは「本当に安心しました。」と喜んでいらっしゃいました。

●抵当権とは
家を買うとき、金融機関などでその不動産を担保にローンを組んだ場合、その不動産には「抵当権」が設定されます。
この抵当権は債務が弁済されないときには、不動産を競売にかけることができます。今回のケースのように、債権者代位などにより法定相続分での共同相続の登記がされた不動産について、遺産分割協議などで法定相続分とは異なった割合で登記を変更をすることができます。以前は、相続人全員で登記をやり直す必要があったのですが、令和5年4月1日から法律が改正され、所有権更正の登記により、登記権利者が単独で申請できることとなり、また、登録免許税も安くなり、登記手続きがやりやすく簡略化されました。
●抵当権抹消手続き
抵当権は特定の債務の担保として設定されるものなので、借りたお金を全額返済すれば、実質的には消滅したことになりますが、その登記の抹消手続きをしない限り、登記が自動的に消えることはありません。「すでに住宅ローンを完済しているにもかかわらず、抵当権を抹消しないまま…」というケースはよく見受けられます。終活の一環として、ご自宅の抵当権がちゃんと抹消されているかどうかを法務局で確認することをお勧めします。
●相続登記義務化
昨年の4月からは相続登記が義務化され、登記により不動産の正しい所有者が明確になることで土地の有効活用が促されることが期待されています。
執筆者情報
事例発行元:相続手続支援センター事例研究会