事例
叔母様のXさんがお亡くなりになられ、甥のAさんがご相談にいらっしゃいました。
Xさんには子供がおらず、ご主人のYさんが亡くなった数年前からは、ご夫婦で住んでいたマンションで一人暮らしをしていました。ご高齢のXさんは殆ど親戚付き合いをしておらず、かわりに、マンション隣室の若いBさんご夫婦が、日ごろ、何くれとなく世話をしてくださっていたそうです。今回の訃報も、そのBさんからのお知らせだったようです。
生前Xさんは、自分が亡くなったら「今住んでいるマンションの部屋は、面倒をみてくれているBさんにあげるからね…」と言っていたそうですが、遺言書は遺されていませんでした。
Aさんとしても、マンションについては故人の世話をしてくれたBさんに生前の約束どおり渡したいとお考えで、まずはXさんのご相続人を確定するため、戸籍の取得から開始しました。すると大変なことになっていることがわかりました。
結果
お子様のいないご夫婦の片方が亡くなられ、その両親等(尊属)も既に亡くなっていると、その財産は配偶者と亡くなった方のご兄弟姉妹で相続をすることになります。今回はご主人のYさんが亡くなった際に、Yさんのご兄弟姉妹と配偶者であるXさんで相続をする必要がありましたが、その手続きをしていなかったため、マンションはYさんの名義のままでした。そしてXさんが亡くなったことで、マンションの名義を変更するためには、Xさんのご兄弟姉妹とYさんのご兄弟姉妹が相続人となり、その全員で遺産分割協議をしなければなりません。ご夫婦ともに末っ子だったため、ご兄弟はYさんに前後して全てお亡くなりになっており、Aさんのような甥、姪のご関係の方たちや、Yさんの後にお亡くなりになった兄弟姉妹については、その配偶者や、そこでもまた子供がなく相続が発生していた場合は、兄弟姉妹と配偶者の兄弟姉妹も…と、どんどん相続人となる方が増えていきました。その結果、遺産分割協議の話し合いをしなければならない相続人は、実に53人に上りました。
ご依頼者のAさんご自身も70歳となり、自分が取りまとめていくのはとてもできないと、時間や費用が掛かっても構わないからと家庭裁判所に調停申立てをすることを選択されました。その後、3年の歳月が流れ、調停から審判を経て、無事にマンションの名義をAさんに変更し、やっとBさん夫婦に贈与をすることができました。
相続が発生した時点で放っておかず、その都度相続手続をすることが大切
●数次相続
死亡により相続が開始したものの、遺産分割をしないうちに、その相続人が死亡し、次の相続が順次開始していくことを「数次相続」といいます。わかりやすく言えば、「相続が開始した後に、その相続人が亡くなった場合」が「数次相続」です。これと混同しがちな言葉に「代襲相続」があります。
●代襲相続
「代襲相続」は、相続が開始した時点で、その相続人になるはずの人が既に亡くなっている場合(相続開始以前に既に死亡していた場合や、何らかの理由で相続権を失っている場合)に、本来の相続人に子どもがいる時は、その子が親に代わって相続人となることを言います。
どちらも、その子や孫が相続人になりますが、「代襲相続」では、第3順位の相続人は甥姪までと限られています。一方、「数次相続」は、その相続人の配偶者も相続人となりますし、子がいない場合は、その兄弟姉妹(甥姪)も相続人となります。相続手続をしないまま、放置しておくと、相続人が雪だるま式に膨れ上がることになるのです。
●遺言の有用性
子がいないご夫婦は、遺言を遺されることをお勧めします。遺言があれば、相続人全員での遺産分割協議は不要です。また、今回、相続人でないBさんに財産を渡すには、相続人に一旦名義変更した後に贈与を行う必要がありました。このような「相続人以外に財産を渡したい場合」も、遺言により「遺贈」すれば、相続人に名義変更をする必要はありません。
執筆者情報
事例発行元:相続手続支援センター事例研究会