ケアマネジャーが人権侵害を謝罪し一件落着したが…

 居宅介護支援事業所は県の福祉局から「障害者が福祉サービスを受ける権利を侵害しているので注意するように」と指導を受けました(Hさんは障害者手帳を持っていました)。管理者は市の介護保険課に報告し、対応について相談しましたが、「ハラスメントの防止も重要だが、個人情報漏洩の事実は明らかなので誠意を持って解決して欲しい」と話がありました。事業所では弁護士に相談し、次のような方針をHさんに通知しました。

・Hさんへの権利侵害の事実を認め管理者が謝罪する
・賠償請求額(500万円)については高額であるため交渉する
・Hさんの介護サービス継続のための手配を行う

するとHさんから、次のように通知があり、この件は一件落着しました。

・ケアマネジャーから謝罪があったため、賠償請求は取り下げる
・居宅介護支援サービスとの契約は解除する
・Hさんへのサービス提供で得た情報は、一切他の事業者に提供しないと誓約すること

ケアマネジャーは利用者のわいせつ行為の情報をどのように取り扱えば良いのでしょうか?

セクシャルハラスメント行為情報の第三者提供を本人に判断させる

厚労省の「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」には…

 利用者や家族からの介護従事者に対するハラスメントを防止するために、一定の情報を事業者間で共有することは必要ですし、厚労省の作成した「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」にも次のようにあります。

関係者(行政(保健所含む)や地域包括支援センター、医師、介護支援専門員、他のサービス提供事業者など)と連携し、ハラスメントを繰り返す利用者・家族等に対応できる体制を築いておくことが重要です。(P23参照)

しかし一方で、同マニュアルでは「利用者や家族等の情報については、個人情報の取扱いに留意しつつハラスメントを繰り返すこと等の正当な理由の範囲で共有することも必要です」と述べており、情報共有には一定の制限があることも確かです。このように、公的制度や公の利益の要求と人権を保護する法律の規制が相矛盾するために、板挟みになることは少なくありません。

ケアマネジャーはどのように対応すれば良かったのか?

介護保険制度の利用者情報の共有のための事業者連携では、人権の侵害につながるような情報は対象外となることに注意しなければなりません。もう一つ重要なことは、介護従事者を守るという大義名分があっても、契約のリスクの判断は他の事業者に頼らず事業者の自己責任で行わなければならないということです。本事例のケースでは、ケアマネジャーは次のように対応すれば良いのではないでしょうか?

後任の事業者から「前任のサービス提供拒否の理由を教えて欲しい」と言われたら、「本人の承諾なしに情報提供はできないので本人に聞いてみます」と答えて本人に次のように話します。「後任の事業者がサービス提供中止の理由を明らかにしなければ、サービス提供ができないと言っている。あなたのセクシャルハラスメント行為がサービス提供中止の理由であると後任の事業者に話しても良いですか?」と尋ねます。本人は承諾するとは思えませんが、「それでは後任のサービス事業者を見つけることは困難になる可能性もあり、サービス提供は難しいと思います」と話します。
そして、「介護サービスに重大問題が発生した場合、市に報告するよう行政指導を受けているので、この件を市にも報告させてもらいます」と話します。

執筆者情報

監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

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