■家族の納得のいく答えが出せない
Hさん(男性89歳)は、自発動作が乏しい重度の認知症の利用者で、半年前に特別養護老人ホームに入所しました。ある時Hさんの娘さんが、面会時に拘縮のある左上腕骨に腫れを発見し、受診すると骨折していたことがわかりました。娘さんは、事故原因の説明を求めましたが、「職員に聞き取り調査をしたが分からない」との回答であり、その後も納得の行く説明がありませんでした。1か月後にHさんの骨折の治療が終わり退院して再入所しましたが、結局治療費は家族の負担となりました。
 ところが、退院して再入所した3日後に、面会に来た娘さんがHさんの顔を見ると、左眉の上が大きく腫れて赤く内出血していました。娘さんはすぐに介護主任を呼び「どこにぶつけたの?誰が見てもぶつけたばかりのアザじゃない」と問いただしました。しかし、介護主任は「先ほど定時のオムツ交換でパッドを交換しただけなので、介護中にぶつけることは無いと思います」と答えました。娘さんは、電話で市に虐待通報した後、警察に行き「何度も虐待が起きているから調べて欲しい」と訴えました。

原因不明の傷・アザ・骨折は虐待の疑いにつながる

■納得のいく説明が無い

特別養護老人ホームなどの入所施設では、原因不明の骨折が何年かに一度起こります。自発動作が乏しい寝たきりに近い利用者に、骨折事故が起こると「動けない父が自分で骨折する訳がない。職員が骨折させたのだろう」と訴えられ、トラブルになることが頻繁にあります。原因不明の傷やアザも同様です。
施設では必ず職員への聞き取り調査を実施しますが、原因は判明せず「調べても分からない」と答える事がほとんどです。こんな対応で家族が納得することはなく、市や警察への虐待通報につながるのです。では、施設はどのように対応したら良いのでしょうか?

原因不明の骨折への対応

寝たきりの利用者に原因不明の骨折が起きると、家族から原因調査の要求がある事が多くあります。原因を調べて介助中の事故であれば、施設の過失として賠償責任が発生することも考えられます。
では、原因が分からない場合の責任はどうなるのでしょうか。利用者の自発動作による事故の可能性が低ければ、介助中の事故と推定され、施設の過失として賠償責任が発生することも考えられます。
 まずは、家族から調査を要求される前に「施設の過失がある場合には、治療費等は施設で補償する」と伝えれば家族は安心します。その後に、事故が起きた介助場面を検証して、どのような介助で骨折が発生したのかを確認し、その上で、再発防止策を説明すれば家族の納得感は変わってくることでしょう。

原因不明の傷・アザへの対応

一方で、原因不明の傷・アザでは、家族が問題にするのは、賠償責任より、虐待の可能性です。
まずは、「傷・アザの形状と他物との接触状況」という別紙のような資料を使って原因を推定し、介助中に発生した傷・アザであるという説明ができれば多くの場合、理解と納得感が得られます。この根拠を示して「今回の傷(アザ)はこのような状況で介助中に付いたものと推定しました。今後は〇〇のように介助方法を変更しますのでご安心ください」と再発防止策を説明すれば、家族は安心するはずです。家族は真相究明というよりも、納得できる説明を求めている、というケースが多く見られます。

【参考】傷・アザへの対応をルール化について

■傷・アザへの対応をルール化する

「不審な傷だ」と家族が訴えているのに、原因究明の姿勢を見せずに家族の反発を買ってしまった原因は、このような傷やアザへの対応がルール化されていないことです。原因が推定しやすい(家族にも分かりやすい)傷やアザはさほど問題になりませんが、説明の努力をしなくてはならないものは、説明の方法をルール化しておくべきなのです。
ある施設では、「傷やアザを発見したらその場で、別表の一覧表に照らして介護職と看護師で受傷場面の推定をする決まりになっています。この一覧表を作ってくれたのはある特養の看護師ですが、長年外科に勤務していた関係で傷やアザの受傷状況の判断を正確にできるのです。

(別表)傷やアザの形状と受傷状況

【傷の形状と接触状況】

内出血の形状他物との接触の仕方
小さくくっきりしている先の尖ったものに衝突してできた内出血、皮下の浅い部分が出血する。
広くぼんやりしている丸みのあるものに衝突してでき内出血、皮下の深い部分が出血する。
比較的細くくっきりしている挟んだり、つねるなどしてできた内出血、皮下の浅い部分が出血する。

【内出血の形状と衝突物】

傷の形状他物との接触の仕方
擦過傷(広く浅い)ザラザラしたものに擦れたために、皮膚上に広く細かく傷付く。
擦過傷(線状に浅い)先の尖ったものに軽く触れたため皮膚が細長く浅く傷付く。
裂傷(線状の深い傷)尖ったもので強く引っ掻いたため皮膚がえぐれ、皮膚の剥離も起こる。
裂傷(裂け傷)打撃・ねじれ・皮膚の引きつりなどにより皮膚が裂ける。皮膚の剥離も起こる。
切創(切り傷)ナイフなどの鋭利な刃物で切ったために傷で創面が滑らか。
刺し傷針などの尖ったもので刺されたために、皮膚に細い穿孔ができる。

※その他内出血は内的疾患から起こることが稀にあり、形状に規則性がなく分かりにくい。

事故が発生する可能性のある場面の想定
事故が発生する可能性のあるすべての場面を想定して調査し判断をするようにします。
原因不明の骨折で想定される場面は次の5つに分かれます。
1.故意に傷つける目的で暴行し受傷させた(虐待)
2.虐待の意図はなく乱暴な介助によって受傷させた(不適切なケア)
3.危険な介助方法で介助して受傷させた(ルール違反など)
4.介助中の介助ミスによって受傷させた(ミスによる事故)
5.介助中の不可抗力的な偶発事故で受傷させた(不可抗力の事故)

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執筆者情報

監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

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