「自宅に送り届けた」と答えた運転手

 Hさん(92歳女性)は、認知症があり、週3回デイサービスを利用しています。朝は9時にお迎えの送迎車で来所し、夕方5時半ころに自宅に戻っていきます。その日も夕方5時に他の女性利用者2名とデイサービスの送迎車で自宅に向かいました。Hさんは最後列の運転席側のシートに座りました。運転手は送り順が二番目の利用者を自宅前で降ろし、玄関まで誘導し、家族に引き渡した後、送迎車に戻りました。この時、運転手はHさんを送って送迎が終了した勘違いして、そのままデイサービスに戻ってしまいました。Hさんが帰って来ないことを不審に思った家族は、デイサービスに電話を入れましたが留守電になっています。仕方なく警察に連絡して事情を話すと、署員がデイサービスの運転手に連絡を入れてくれました。署員の問い合わせに対して、運転手は「自宅に送り届けました」と答えたため、家族は一晩中、家の付近を捜索しましが、Hさんを見つける事ができませんでした。ところが、翌朝出勤した他の運転手が駐車場の送迎車の中でHさんを発見しました。Hさんは救急搬送されましたが、軽い脱水症状だけで、命に別状はありませんでした。家族は「冬だったら凍死していたぞ!」と厳重に抗議しました。

降ろし忘れは迎えより送りのほうが起こりやすい

送りの降ろし忘れはたくさん起きている

迎えの送迎時に降ろし忘れて熱中症で死亡させる事故が問題となり、注目されていますが、実は送りの送迎でも事故がたくさん起きています。大きな問題にならなかったのは、家族が不審に思い対応することで発見も早く、放置されても熱中症等の重篤な状態にならなかったからでしょう。なぜ、送りの送迎では降ろし忘れが多いのでしょうか?迎えより送りの送迎のほうが、次のような不利な条件が揃っているのです。

  • 迎えより家族と接触が長く車内の利用者への注意が疎かになる
  • 迎えの送迎と異なり送迎者管理表が無く順番も一定でない
  • 施設の業務が終了しており送迎終了時のチェックが難しい
  • 車内が暗いため駐車場に停めた時に後部座席が見えない

では、送りの送迎時の降ろし忘れはどのように防いだら良いのでしょうか?

送迎中は車内を明るくする
 “お送り”の送迎は時間が遅くなる場合があり、車内が暗いため後部座席をチェックしても見落とす可能性があります。10月11日午後5時半に送迎車の車内を撮影してみましたが、外は明るいのに車内は真っ暗です。後部座席の室内灯を点けておくことで、後部座席が確認しやすくなります。

送迎終了時に車内を撮影してメールで送る
 次に施設に戻り送迎車を駐車する場面でのチェックが問題です。遅い時間になればデイのスタッフが施設に残っていないこともあります。そこで、室内灯を付けてスマホで後部座席を撮影して、事務のパソコンと所長・相談員のスマホにメールで送ってもらうことにしました。業務終了が近づいてくれば緊張感も緩んでしまいます。みんなで連携して確認すれば、ドライバーさんも安心して帰れます。

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執筆者情報

監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

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