利用者が来所しないことにスタッフが気づかない

Mさん(88歳男性)は、軽度半身麻痺のデイサービス利用者で、認知症はありません。物静かな方で送迎中も他の利用者と会話などは無く、終始、黙っています。送迎車から降りる時にドライバーがお手伝いすると、「いつもありがとう」とていねいな一言を返されます。
 その日、お迎えの送迎業務が終了したドライバーは、送迎車をデイサービスの裏に駐車しドアをロックしました。ドライバーは帰宅直後に、フッとMさんのことを思い出しました。送迎車に乗る時には介助しましたが、降りる時にいつものように声を掛けられた記憶がありません。
 心配になったドライバーはすぐにデイサービスに戻りました。すると、送迎車にスタッフが集まっており、Mさんの家族も居るのが確認できました。Mさんは「うたた寝をしていたら、降りていないのにロックされ車に閉じ込められた」と話されました。送迎車はチャイルドロック機能でドアが開かず、前方座席に移動もできず、仕方なくMさんは携帯で家族に救助を求めてきたというのです。所長は「ドライバーがとんでもないミスをしました。十分注意するよう指導します。申し訳ありません」と謝罪しました。しかし、家族は「デイに到着していないことになぜスタッフが誰も気づかないのか!」と猛烈に抗議しました。

ミスを防ぐ対策よりミスを発見するチェックが重要

うっかりミスが利用者の生命につながる業務の仕組みが問題

 所長はドライバーのミスとしてこの事故を片付けようとしましたが、家族は納得しませんでした。もちろん、ドライバーがMさんを降ろし忘れたために起きた事故であり、直接の事故原因はドライバーのミスなのですが、組織で事故を防ぐ仕組みができていなかったことを家族は問題にしたのです。
 この事例の重大な問題は、“利用予定の利用者がデイに到着していないことに誰も気づかなかったこと”です。過去の送迎車の降ろし忘れ事故を検証しても、施設内のスタッフが、到着しない利用者に気づかず長時間放置したことで利用者がお亡くなりになっています。人のミスを防止する対策も重要ですが、もし人のミスが起きても、事故につながる前にミスを発見して是正する対策のほうがより重要であると考えなければなりません。職員のうっかりミスが、そのまま利用者の生命につながるような業務の仕組みにこそ大きな問題があるのです。

ヒューマンエラー事故の防止対策とは?

ヒューマンエラー(人のミス)によって起こる事故は、人のミスが原因で事故が発生するように見えるため、その防止対策は人のミスを防ぐことがばかりが強調されてしまいます。しかし、ヒューマンエラー事故防止対策では、ミス・事故・損害と3つに分けて「ミスが原因で事故が起こり、事故の結果損害が発生する」と考え、
「ミスを防ぐ対策」「ミスを発見するチェックの対策」「事故が起きた時損害を軽減する対策」という3つの対策を講じなければなりません。

このように「利用者を送迎車から降ろし忘れない対策」「降ろし忘れミスにすぐに気づく対策」「降ろし忘れ長時間放置した時の救命の対策」の3つに分けて何重にも対策を講じてください。

具体的な対策については動画でご紹介しています
https://bit.ly/3BgOr0z

●BCP作成研修会のご案内<無料・WEB開催>

執筆者情報

監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

こちらの記事もおすすめです