後ろから来たバイクにひったくられ

Dさんは、居宅介護支援事業所に勤務しているケアマネジャーです。ある日、Dさんは独居のKさん(軽度の認知症あり)宅を午後5時に訪問し、近所に住む息子さん同席の上で、デイ利用について打ち合わせをして帰宅しました。ところが、帰宅途中に自転車で公園脇の道路を走行中、後ろから走ってきたバイクに買い物かごの中のバッグをひったくられてしまいました。すぐに110番通報し現場検証を行い、翌日事業所に報告しました。バッグにKさんの書類が入っていたため、息子さんに連絡して謝罪し、市に個人情報漏洩事故として届け出ました。ところが、翌日息子さんがやってきて「認知症で独居の母の情報が犯罪者の手に渡ったのだから保護して欲しい」と警備の要求がありました。事業所では、「こちらも被害者なので・・・」と理解を求めましたが、息子さんは市に苦情申し立てをしました。

要配慮個人情報の漏洩に対する個人情報保護法改正点

高齢者の個人情報漏洩は犯罪被害につながる

事業所の管理者は、個人情報の漏洩事故は役所に届け出て本人に謝罪すれば良いと考えていました。しかし、一人暮らしで軽度認知症の利用者の住所が記載された情報提供書が、窃盗犯の手に渡ったということは、今夜強盗に入られる危険があるかもしれません。一般に個人情報漏洩はコンプライアンスと同じように考えられていて、情報が漏洩した本人に直接的な被害が及ぶケースまでは想定していない事が多いです。しかし、このケースでは直接犯罪者の手に独居高齢者の詳細な障がいの情報が伝わってしまっており、息子さんが「犯罪被害から母を保護して欲しい」と要求してきたのは、当然のことともいえます。では、どのようにして利用者を犯罪被害から守ったら良いのでしょうか?

頻繁に利用者宅を訪問する

以前あるサービス提供責任者が独居の利用者の個人情報を盗まれた事件でも、同様に利用者本人の犯罪被害のリスクが生じ、保護した事例があります。具体的に講じた対策は次の通りです。
 1.警備会社に依頼して、事件発生後から1週間程度、1日1回制服の警備員が利用者宅を訪問した。
 2.居宅介護支援事業所の職員が午前と午後1回ずつ利用者宅を訪問した。
 3.キーパーソンのご家族にも、できるだけ頻繁に訪問してもらうように依頼した。
 4.警察に届け出て近隣の交番の警察官に巡回を依頼した。
 このように、事件後に多くの人が被害者の居宅を訪問することで、犯罪者からの攻撃を防ぐ対策を取りました。犯罪被害防止にどれだけ効果があったか分かりませんが、利用者と家族の安心につながり、家族も納得してくれました。

4月1日の個人情報保護法の改正では…

ご存じのように、2022年4月から改正個人情報保護法が施行されます。今回、次のような改正点がありますから注意が必要です。

 個人情報漏洩の被害者が認知症であるということは要配慮個人情報の該当しますし、犯罪者の手に情報が渡ったことは権利侵害のおそれが大きい場合に該当すると考えられるので、本事例は個人情報保護委員会への報告義務がある典型的なケースなのです。

※要配慮個人情報とは・・・以前は「センシティブ情報」と呼んでいたプライバシー性の高い個人情報で、次のようなものを言う。 
 ・人種、信条、社会的身分、病歴、前科、犯罪被害情報 ・身体障害、知的障害、精神障害等があること ・健康診断その他の検査の結果など

執筆者情報

監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

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