医師会クラスター対策班による対応

尼崎市の特養で職員と利用者3名の感染が判明しました。多床室では感染拡大は防げないと判断した施設は、すぐに保健所に届け出ました。全利用者のPCR検査を実施し、職員16名・利用者37名の感染が判明しました。保健所の指示で市の医師会クラスター対策班の医師が派遣され、中和抗体薬ゼビュディ(30名)と経口治療薬ラゲブリオ(3名)を投与したため、全ての利用者が軽症で推移し、死亡者も出ませんでした。「体調変化に素早く気付く→迅速な検査を実施→発生届を保健所に提出し→重症化防止治療につなげる、という、迅速な対応で重症化を防げた」と施設長は話します。この経験から、施設でクラスターが発生した時の、重症化防止治療はどのように行えば良いのでしょうか?

感染早期発見・届け出・治療により重症化を防止

今回使われた治療薬

本事例で使用された治療薬は中和抗体薬ゼビュディと経口治療薬ラゲブリオです。なぜ2種類の治療薬が投与され、ゼビュディを多く投与したのでしょうか?

1.ゼビュディの重症化抑制効果は85%であり、ラゲブリオの30%と比べて格段に高い
2.発症から投与までの期間がゼビュディは7日でラゲブリオの5日に比べ時間的に余裕がある
3.ゼビュディは点滴1回の投与であり、ラゲブリオの5日間に比べて投与期間が短い

以上のように2つの治療薬には効果や投与方法に違いがあります。重症化抑制率、発症からの投薬への日数制限、認知症利用者への投与のしやすさなどを勘案して、医師がゼビュディの投与を選んだのでしょう。

施設の配置医師との事前の打ち合わせを!

本事例では、尼崎市医師会の医師が適切な治療薬を選び迅速に投与を行ったため、大きなクラスターであるにもかかわらず死亡者が出ませんでした。しかし、どの自治体でもクラスター対策班の医師が駆けつけてくれる訳ではありません。施設は、クラスターが発生した時の治療対策について、施設の配置医師と事前に打ち合わせをしておく必要があります。
たとえば、今回の事例ではゼビュディを30名もの利用者に迅速に投与できましたが、全ての医師がこのような対応ができる訳ではありません。ゼビュディはあらかじめ投与する医師が治療薬の登録センターに登録して、治療薬の提供を受けることが必要だからです。次の「やるべきこと」は尼崎市医師会クラスター対策班の原医師からの助言ですので、是非参考にして下さい。

執筆者情報

監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

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