◆はじめに・・・
B君は、いつも半袖を着て走り回る元気な男の子。B君のご両親は共働きで忙しく、お迎えはお父さんが行っていました。保育園のE先生は、今週から気温がぐっと下がってきたため、風邪をひいてしまうことを心配し、お父さんに長袖と上着を持ってきてもらうようお願いしました。翌週、B君はお父さんが新しく購入してくれた長袖を着て、毛糸のカーディガンを持参して登園してきました。しかし、いつも元気にお友達と楽しく遊んでいたB君は、お友達と遊ぼうとせず、ずっと同じ場所でじっと静かにしていました。翌日も様子は変わらず、心配したE先生がB君に「しんどいの?」と聞いてみると、「痛い」と一言。先生は、B君が知らない間に怪我をしたのか?と慌てて体中を確認しましたが、どこもケガはしていません。 原因が分からないまま一週間が経過し・・・。

◆人によって感じ方が違う「触覚」

目に見えない「感覚」。
基礎となる五つの感覚として、視覚、前庭感覚、固有感覚、触覚、聴覚があります。
なかでも「触覚」は、日常生活で様々な活動や運動を滑らかに行うときの手がかりとして大切な役割を果たします。しかし、その感じ方が人によって強かったり、弱かったりすることがあります。
強く感じてしまうことを「感覚過敏」、逆に弱く感じてしまうことを「感覚鈍麻」と言います。例えば、歩くときは、主に足の裏からの感覚を頼りにしています。感覚過敏の子どもは、常につま先立ちをしているため足裏全体で地面を捉えられていなかったり、足裏からの情報が上手く脳に伝わらず、バランスや運動に影響を及ぼすことがあります。また、手でお団子を作るとき、感覚が鈍くて、力を入れ過ぎて上手にまん丸の形が作れなかったりすることがあります。

◆B君が「痛い」と感じた理由とは?

B君が「痛い」と感じた理由、それは「感覚過敏」にありました。服は、常に直接からだの皮膚にあたるものです。
しかし、服の素材による違いはあるものの、どの服にも内側には、縫い目やタグなど意外と凸凹があります。また、冬の服は素材によっては
毛があたってチクチクします。厚着になると、余計に皮膚に当たってしまいます。B君は慣れない長袖と新しい毛糸のカーディガンを着て、
その素材が「チクチク」ではなく、「痛い」と感じたのでしょう。
このように「感覚過敏」で服を着ることを嫌がるお子さんは意外と多くいます。「そのうち慣れるのでは?」と思われがちですが、大きくなっても
感じ方は変わらず、子どものストレスや体調不良につながってしまうこともあります。

◆「痛い」服への対処方法は?

痛い服への対処は、以下のような工夫があります。

・タグを切る:ピラピラしたタグを切るもしくは取る・アイロンでタグをかぶせることのできるシートを貼る
・服を裏返しに着る:下着であれば、縫い目を外側にするために裏返しにすると凹凸が少なくなります
・サイズを大きめにする:直接皮膚に密着することが不快な場合、1サイズを大きくしてみる

どのような素材が良いかは子どもによって異なるため、どの素材が心地よく過ごせるか本人に聞いてみたり、親御さんに伝え、一緒に
対処方法を考えてみても良いでしょう。感覚過敏かどうかは、日常生活から子どもの様子を観察することが一番ではありますが、普段の
生活で分からない場合は、感じ方を定量的にみる評価ツール(SensoryProfileなど)もあるため、専門家への相談もお勧めします。

「感覚過敏」の子どもには、慣れさせるのではなく、普段触れている素材を見直し、まずは日常保育での対処方法を考えてみましょう。

執筆者情報

株式会社東京リハビリテーションサービス
 作業療法士・公認心理師 竹中 佐江子

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