先般、バス運転者の健康に起因する重大事故が発生したことから、貨物自動車運送事業者に対しても、国土交通省より、通達「運転者が体調不良等を生じた場合における適切な運行管理の徹底について」(令和4年12月8日)が出されました。 これを受けて今回は、健康起因事故の発生状況や通達の内容、健康起因事故防止のための取組について紹介します。

1.健康起因事故の発生状況

◆健康起因事故とは

健康起因事故とは、自動車事故報告規則第2条第9号に規定されている「運転者の疾病により、事業用自動車の運転を継続することができなくなったもの」をいいます。疾病には、心筋梗塞や心不全などの心臓疾患、くも膜下出血や脳内出血などの脳疾患、睡眠時無呼吸症候群(SAS)などがありますが、いずれも運転中に発症すれば、運転不能状態に陥る危険性が極めて高く、重大事故につながるおそれがあります。

◆トラック運送事業の健康起因事故は増加傾向にある

下図は、平成25年から令和2年までのトラックの健康起因事故発生件数を示したものです。令和元年(R1)は前年よりも減少しているものの、全体としては増加傾向にあり、平成25年~令和2年において、最も少なかった平成26年の35件と令和2年の105件を比べると3倍も多くなっています。健康起因事故防止のための早急な取組が求められています。

出典:「自動車運送事業用自動車事故統計年報(自動車交通の輸送の
    安全にかかわる情報)(令和2年)」(国土交通省  自動車局)

2.健康起因事故防止への取組

◆国土交通省の通達内容の遵守

健康起因事故防止の取組にあたっては、下記の国土交通省の通達内容を遵守する必要があります。

【通達】運転者が体調不良等を生じた場合における適切な運行管理の徹底について

  1. 運転者は、運行中に体調不良等を生じた場合には、周囲の安全に配慮しつつ直ちに車両を安全な場所に停車し、運行管理者に報告し、指示を受けること。
  2. 運行管理者は、運転者の日常の健康状態の確認を行うことはもとより、運転者から体調不良等の報告があった場合には、速やかに状況把握を行い、運転者に対し適切な指示を行うとともに、交替運転者を手配する等運行管理を適切に行うこと。
  3. 自動車運送事業者は、定期健康診断の実施はもとより、国土交通省の「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」(※)等も活用して運転者の健康状態の把握に努めるとともに、日頃からコミュニケーションを図ることにより、運転者が、自身の健康状態等について、運行中も含め気軽に相談・申告できる職場環境づくりに努めること。

◆健康診断の確実な実施が必須条件

健康起因事故を防止するためには、通達にもあるように健康診断の実施が必須条件となります。健康診断については、労働安全衛生法第66条において、事業者には1年に1回(深夜業務につく場合は半年に1回)の健康診断の実施が義務づけられており、労働者も健康診断を受診することが義務づけられていますから、受診漏れがないよう確実に実施していくことが大切です。また、再検査や要治療などの所見があった運転者に対しては、検査を受けたか、治療を始めたか、運転に支障はないか、運転時に注意しなければならないことがあるか、などを確認し、状況に応じて勤務や乗務割などの見直しも検討しましょう。

「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」は、下記より閲覧できます。
 https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03safety/health.html

執筆者情報

記事の作成・編集:MS&ADインターリスク総研株式会社

こちらの記事もおすすめです