事例

ご主人が亡くなられたと、Aさんからご相談がありました。Aさんご夫婦にはお子様がいらっしゃらず、ご主人のXさんのご両親は既に他界されていた為、相続人は妻のAさんとXさんのお姉様になります。このお姉様も既に亡くなられていたので、実際の相続人は甥のBさんとCさんになります。
「甥っ子とは疎遠で、何年も連絡を取っていないので遺産分割に応じてくれるかどうかも分かりません。法定相続分を渡せばいいんですよね?」と話すAさん。遺産分割協議で相続人全員の同意があれば、どんな割合の分け方でも可能ですよ、とお伝えし、甥っ子さん2人と話し合いをしてみてくださいとご提案しました。しばらくして、「甥っ子2人と電話で話しました。法定相続分で遺産を分割するという内容で話がまとまりました」 と、Aさんからご連絡がありました。

結果

早速その内容で準備を開始すると、今度は甥のBさんとCさんから直接お電話がありました。
「すべての遺産を叔母さんに相続してほしいんです」
「僕たち兄弟は、叔母さんにも叔父さんにもとてもお世話になってきました。最近は仕事が
忙しくてなかなか会えていませんが、お世話になったことは忘れていません」
どうもAさんから聞いていた内容と違うため、話をよく伺ってみました。すると、Bさんたちは『遺産分割は必ず法定相続分で行わないといけない、と思い込んでいた』らしいのです。
そのため最初は法定相続分で分けることに承諾したそうですが、よくよく調べてみると同意があればどんな分割内容でも構わないことを知ったそうです。それならばすべてAさんに相続して欲しい、ということでした。
すぐにAさんにこのことをお伝えしました。すると、「あの2人がそんなことを・・・」と大変驚いておられました。
遺産はすべてAさんが相続する形で手続きが完了し、完了報告でご自宅へ伺うと、Aさんは笑顔で仰っていました。
「あれから甥っ子と連絡を取るようになってね。今度、家に遊びに来てくれることになったのよ」

ポイント

法定相続分と分割協議

●法定相続分

相続人が二人以上いる場合、相続財産はいったん共同相続人全員の共有となります。
この際、各共同相続人が相続財産上に有する権利義務の割合を相続分といいます。この相続分は、遺言で指定がない場合、民法の規定により法定相続分が決められています。この法定相続分は相続人が誰かにより異なります。子と配偶者が相続人の場合、それぞれ2分の1となり、直系尊属(親、祖父母等)と配偶者の場合は、配偶者は3分の2、直系尊属は3分の1、兄弟姉妹と配偶者が相続人である場合は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1となります。


●遺産分割協議

遺言書が無い場合に相続財産の共有状態を解消するには、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
遺産分割に際し、法定相続分は目安とはなりますが、必ずしもそのとおりに分けなければならない、というわけではありません。今回の事例のように、相続人全員が合意すれば、自由に割合を決めることができ、一人の相続人に全財産を取得させることも可能です。遺産分割に際しては、財産の種類や性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して行うものとされています。被相続人の意思なども考慮要素に入れる場合が多いようです。不動産についてはその使用状況なども検討材料となるでしょう。一棟の建物のように分けられない場合には、共有で取得する、換価して分けるということもできますが、一人の相続人にその不動産を取得させ、その代わりにその相続人が他の相続人に代償金を支払うといったやり方も可能です。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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