事例

ご主人のXさんが亡くなられたとYさんからご相談をいただきました。Xさんは自筆の遺言書を遺されていました。封がされている自筆証書遺言は、家庭裁判所での検認を受ける必要があるため、早速その手続きから開始しました。
相続人は奥様のYさんのほか、長女Aさんと長男Bさんの二人です。Aさんは隣町のXさん所有のマンションに住んでいます。XさんYさんのご自宅はXさん名義で、二世帯住宅に改築され、Bさんご家族が同居しています。
後日、家庭裁判所の検認を経て、遺言書の内容を確認すると、ご自宅は同居するBさんが、隣町のマンションは居住するAさんがそれぞれ取得し、預貯金はをYさんが受け取るというものでした。

結果

また、封筒の中には、遺言書を補足する内容の「メモ」がありました。遺言書は10年以上前に書かれたものでしたが、その「補足メモ」は亡くなる少し前に書かれたようです。それによると、法律改正により新しくできた「配偶者居住権」を奥様のYさんに遺贈するという内容でした。
「配偶者居住権」とは、夫婦の一方が亡くなった場合、亡くなった人が所有していた建物に、
残された配偶者が亡くなるまで、又は一定の期間、無償で居住することができる権利です。
Xさんは、子供二人に自分たちが住む不動産を分け与える一方で、近年の民法改正で
新設された制度を使って、奥様の生活も盤石となるよう配慮したようです。
ところが、厳格な要式が要求される遺言書において、この「メモ」では遺言書の訂正要式を充たしません。
そのため、故人の遺志に従って配偶者居住権を設定・登記するには、別途、相続人全員での遺産分割協議書
作成が必要でした。実は、自分亡き後もYさんがBさんご家族と円満に住み続けられるように、というXさんのお考えで、ご自宅を二世帯住宅に改築したとのこと。そして、その願い通り、あえて配偶者居住権を設定する必要がない
程、YさんとBさんご家族の仲は良好でした。それでも、遺された妻と子、それぞれに配慮するXさんの遺志を尊重したいということで、遺産分割協議書を作成して、配偶者居住権を設定することとなりました。

ポイント

自筆証書遺言の注意と配偶者居住権

●自筆証書遺言の注意

自分で遺言書を書いた場合(自筆証書遺言)、書き間違えた場合に訂正することは可能ですが、訂正には民法による厳格な方式が定められており、これに従わない訂正は認められません。訂正の仕方に不備があると遺言書全体が無効となる場合もあります。書き損じたときや内容を変更したい場合は、最初から書き直すことをお勧めします。


●配偶者居住権

  

配偶者居住権とは前述の通りで、子は配偶者居住権という負担が付いた所有権を取得することになります。
この配偶者居住権は遺産分割協議により取得するほか、遺言での遺贈の目的とすることができます。自宅建物を所有する者は、遺言により、配偶者の居住権を確保しつつ、自宅の所有権については自分の子に取得させることが可能となります。配偶者居住権は所有権よりも低く財産評価されることになるため、配偶者は遺産分割で多くの預貯金を相続できることになり、老後の生活が困窮する事態が避けられます。
ただ、配偶者偶居住権は、妻と(前妻の)子との間で意見が対立するなど、遺産分割協議の難航が予想される場合に有用な制度であり、遺産分割協議が滞りなく進むのであれば、あえて利用する必要はないといえそうです。
2020年に施行されたばかりで、まだあまり知られていない制度ですが、今後浸透していけば、今回のXさんのように、「妻への贈り物」として遺言に入れておくという方が増えてくるかもしれません。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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