事例

Aさんから、亡くなった弟・Xさんの相続についてご相談を受けました。Xさんには配偶者や子はいません。お父様は既に亡くなっているので、相続人はお母様お一人です。お母様は高齢のため、Aさん同席でお話を伺いました。どうやら、お母様にはほとんど連絡をしなかったXさん。Aさん達兄弟姉妹とはたまに連絡を取っていましたが、ご病気については誰も詳しく聞いていなかったそうです。
お母様は、「Xがどのような生活をしていたのかが知りたい。何か人様に迷惑を掛けるようなことはしていなかったか、それだけが気がかりです。」と、か細い声でおっしゃいました。

結果

まず、 Aさんが、アパートと仕事先へ連絡をし、退去や退職の手続きを済ませました。勤め先からの退職金等は出ないとのことです。また、Xさんが住んでいた一人暮らし用のアパートには、L銀行やM銀行の通帳がありましたが、いずれも繰越済で現在の残高はわかりませんでした。
それでも、郵便物やクレジットカードの書類等から、通帳がある銀行以外に、いくつかのネット銀行にも口座があることを確認できました。借金等はないように見受けられます。早速、委任状をもとに残高証明を取っていき、お母様の意向に基づき、取引履歴の照会を行いました。
すると、Xさんの生前のお金の動きがみえてきました。L銀行の口座には、給与振込の他、家賃や光熱費、クレジットカード決済による動画・音楽の定期契約などの引落しが確認できました。幸いに、個人間での貸し借りはない様子でした。
また、ネット銀行の履歴には、株式の配当金や証券会社からの入金の記録がありました。ネット証券にも口座があったようです。そこで、その記載の証券会社に対しても調査したところ、株式は亡くなる前にすべて売却されていました。ご自身の医療費に充てる予定だったのかもしれません。さらに、JRA専用口座、少額の宝くじ購入用口座と、各銀行の口座ごとに使い分けていらっしゃったXさん。
相続手続の完了と共に、「毎月のお給料をもとに堅実に生活されていた様子がうかがえたこと」をお母様に報告しました。お金の動きが全てではなく、お母様の願いには届かなかったかもしれませんが、ご納得いただきました。

ポイント

故人の通帳は相続財産のヒントの宝庫

●通帳から得られるヒント

  記帳内容は、通帳の口座以外の財産を解明するヒントになります。例えば、保険料の引落しや配当金・分配金の振込があれば、それぞれ保険契約や株式の所有・投資信託の契約などを推察できます。通常の年金以外に企業年金等の記載があれば、漏れがちな手続きのフォローにもなります。また、銀行に対して死亡を通知することで引落し不能となり、請求書が送付されます。そこから財産内容を確認し、手続きを進めていくという方法もあります。


●通帳には記載されない財産や契約

  一方、通帳のないネット銀行はIDやパスワードが分からないと内容を確認できません。そもそも、ネット銀行に口座があるかどうかを知ること自体が困難です。ネット完結で郵便物もなく、財産が気付かれずに埋もれてしまう可能性も高いのです。もしもの時に備えて、エンディングノートなどに書いておくなどの対応が望まれます。
 近年利用者が増えた「サブスク」ことサブスクリプション(定期購読・定期契約)も要注意。利用料の滞納により自動的に契約破棄となるサービスなら、クレジットカード等の解約で済みますが、滞納分を後日請求してくるサービスについては個別に契約解除をしなければなりません。また、JRA専用口座を解約する場合には、口座解約に先立ち、JRAとの契約解除手続が必要となります。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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