事例

Xさんが亡くなったとして、同居するAさんが相続相談にお越しになりました。お話をお伺いすると、XさんとAさんは長年共に生活してきたそうですが、同性の為、現行の日本の法律上結婚できない関係でした。Xさんには法律上の配偶者も子供もいません。Xさんのお母様は地方でご健在だそうです。Xさんの法定相続人はお母様のみとなります。
自らの死期を感じとったXさんは、病床で遺言書を書かれていました。通常、自筆証書遺言は和紙やレポート用紙などの一枚紙に書かれるのですが、Xさんは机に向かって書くことができなかった為か、ノートに書かれていました。
その遺言書には、財産をすべてAさんに遺贈する旨が明確に書かれていました。そして、Aさんと協力しあって生きてきたこと、自分の財産はAさんと共に築き上げてきたものであること、そして、自分にもし何かがあってもAさんがその財産を受け継ぐ権利を失うことがあってはならない、と強い意思を感じさせる文脈が続いているものでした。

結果

相続を受ける権利は法律で規定されており、法律上の配偶者は相続人となりますが、事実婚や同性婚の場合は、相続人とはなりません。その場合でも、遺言書があれば財産を遺贈で受けることはできます。
Xさんが遺言を遺されていたおかげで、Aさんは財産を受け継ぐ権利を失う事態を避けることができました。もし遺言書がなければ、すべての財産を法定相続人であるお母様が相続することになり、Aさんは財産を受け継ぐことが
できないところでした。ただ、お母様には遺留分を主張する権利があります。
遺留分とは一定の相続人に残しておくべき一定の相続財産の割合のことです。Xさんのお母様は、XさんとAさんの関係を前もって理解されていたので、遺留分を主張しませんでした。
自筆で書かれた遺言書である為、家庭裁判所での検認が必要となり、手続きに時間を要しましたが、無事に、Aさんに財産を移管していくことができました。ノートに書かれた遺言書から滲み出るXさんのAさんに対する思いと、幸せを願う強い意思が、無事に相続を完了させたのだと思います。

ポイント

家庭裁判所による遺産分割調停

●相続人と被相続人

人が亡くなったとき、亡くなった人を被相続人、財産を承継する人を相続人といいます。
相続人には配偶者相続人(妻又は夫)と血族相続人(子や親、兄弟姉妹)があり、これは民法で定められています。相続人は相続開始時に法律により決定され、遺言により相続人の指定をすることはできません。
また、あくまで法律上の配偶者に限られ、いわゆる事実婚や同性婚などで夫婦として生活してきた場合でも、相続する権利はありません。これらの方に対して財産を引き継がせる方法に、遺言で遺贈するという方法があります。
遺言があれば、親族関係にない第三者に対しても受遺者として財産を承継させたり、寄付したりすることが可能です。

●遺言書
今回のような同性婚の場合は、まさに、現行の日本の法律上相続権が認めらてれおらず、遺言がなければ、Aさんは財産を受け継ぐことはおろか、相続に関する手続きすら行えないところでした。遺言書には主に、自分で書く自筆証書遺言と、公証人が作成する公正証書遺言がありますが、このような場合に備え、亡くなったと同時に手続きに使用できる「公正証書遺言」の作成をお勧めします。なお、公正証書は公証役場に行かずとも、公証人が病院や自宅に出張して作成することが可能です。後者は形式不備の心配などがない、より確実な遺言書であると言えます。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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