事例

Aさんからのご相談は、亡くなられたお母様の相続手続についてでした。お父様のYさんはご健在で、子供はAさんと弟Bさんのお二人とのことですが、「実は弟について問題がありまして」とAさんが話し始めました。
Bさんは学校を卒業後、家を出たまま20年以上所在が分からないというのです。「母とは連絡を取っていたかもしれないが、自分や父には一切連絡もなく、どこで何をしているのか全く見当がつかない」と困り果てた様子のAさん。
お母様の相続財産は、ご自宅の不動産と預貯金、保険です。保険は、お母様がBさん名義で掛けていたもので、家出したBさんの為にひそかに貯金していたものと思われます。お母様は遺言書を遺されていなかったので、Bさんとの遺産分割協議をしなければなりません。戸籍を取得していくと同時に、Bさんの住所を調査していきました。

結果

調査の結果、Bさんは東京郊外にお住まいであることが判明しました。まずはAさんや私どもから手紙を出してみます。何度か出してみましたが、何の反応もありません。書留で出したら受け取らず戻って来てしまう有様です。
Aさんが実際に家を訪ねてみましたが、いつ行っても不在でした。探偵のように深夜まで張り込みをするわけにもいかず、Aさんは裁判所の力を借りることを決断されました。Bさんを相手に遺産分割調停の申立てを行うのです。
遺産分割調停とは、相続人間での意見が対立して遺産分割の話し合いがまとまらない場合や、いくら連絡しても協議に応じてもらえない場合などに利用できる制度です。調停申立が受理されると、裁判所から調停期日が指定され、その日に双方が裁判所に集まり、調停委員と話し合いを行っていきます。
しかし、何回か期日を示しても、Bさんは一度も呼び出しに応じませんでした。
調停は不成立と判断され、遺産分割審判に移行し、裁判所により判断が示されました。
不動産と預貯金は法定相続分で分割するという内容です。具体的には、不動産はYさん名義に変更して換価し、預貯金は解約してYさんが一旦取得し、YさんからAさんとBさんに分配するよう、示されました。
Bさんが相続することとなった財産はBさんと連絡がつくまでYさんが預かることになりますので、相続手続は完了しましたが、YさんAさんにとっての完了はまだまだ先のことです。

ポイント

家庭裁判所による遺産分割調停

●遺産分割協議
故人が遺言書を遺していない場合、各相続人は法定相続分に従って遺産を相続します。遺言書があった場合も、相続人全員が話し合って納得すれば、遺産をどのように分けても構いません。このように、具体的に誰が何を相続するかを相続人全員による話し合い決定することを「遺産分割協議」といいます。

●遺産分割調停
しかし、今回のケースのように、いくら連絡しても相続人が協議に応じない、または、相続人間での意見が対立して協議がまとまらず、遺産分割協議が成立しない場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、話し合いまたは家庭裁判所の審判により決めてもらうという方法があります。この遺産分割調停は、一部の相続人を除外すると無効となります。調停手続きでは、当事者双方から事情を聴くなど、各当事者の意向を聴取して、解決案の提示や、解決に必要な助言を行って、合意を目指した話し合いが進められます。話し合いがまとまらず調停が不成立となった場合には、自動的に審判手続が開始され、裁判官が、遺産に属する物又は権利の種類及び性質その他の一切の事情を考慮して、審判することになります。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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